Ethno nationalism〜契り〜-12
ー夕方ー
藤田は部屋で目を覚ました。
「…つい眠ってしまったか……」
昼食を摂った後、部屋の暖かさにうたた寝をしていた。
いつもなら喫茶店で過ごすのだが、昨夜の件で顔を出しずらい。
仕方なく出前を取って済ませたのだ。
自販機で買った缶コーヒーを口にする藤田。
(あまり旨いモノじゃないな)
戦地などでは、飲まなくともなんとも思わないのだが、飲むとなると慎也の入れるコーヒーに慣れ親しんだ藤田にとって、缶コーヒーはマズく感じられた。
ふと、気づくと携帯が机の上で震えている。昨夜、静代と一緒だったのでマナーモードに切り替えていたのだ。
「はい、藤田ですが」
慌てて通話ボタンを押した。もちろんディスプレイなど確認せずに。
「……」
相手は喋らない。藤田は問いかける。
「もしもし、聞こえてます?」
途端に電話は切れた。藤田は始めてディスプレイを見た。それは亡くなった佐伯の携帯番号だった。
(…!)
慌ててリダイアルをする。
しばらくの沈黙。そして接続音が聞こえた。
「もしもし!アンタ誰なんだ!何のつもりか知らんが……」
だが、聞こえてきたのは通話不能のインフォメーションだった。
「クソッ!」
電話を切る藤田。と、再び携帯が震え出した。
「もしもし!いい加減にしろよ」
「どうしたんだ?えらい剣幕で……」
相川の声だった。
「いや……何でもないんだ」
「…そうか。昨日の件だが、8時頃どうだ?」
「分かった。何処で会う?」
「お前の自宅で良いんじゃないのか」
藤田はちょっと考えた。先刻の電話が気になった。
「いや、ここはマズイ…〈いつもの場所〉にしよう。今から予約を入れるから」
「分かった。じゃあ8時に……」
相川はそう言うと電話を切った。藤田はすぐにいつもの場所、大名の〈ペルージャ〉に予約を入れた。