Ethno nationalism〜契り〜-10
「村瀬!署長がお呼びだ。オレと一緒に来い」
「エッ、何かあったんですか?」
「それはオレも聞いていないんだ。ただ2人で来てくれと…」
(…変だ。特捜班の許可ならわざわざ課長と2人、呼び寄せたりしない)
不安を抱えながら村瀬は署長室へと向かった。
課長がドアーを軽く叩く。中から、やや野太い声で〈どうぞ〉と聞こえ課長がドアーを開く。
そこにはシルバーグレイというか、白髪頭をオールバックにとかし上げた恰幅の良い男が待っていた。
「署長、村瀬を連れて参りました」
課長が、やや緊張した面持ちで中に入ると、署長の織原はその人懐っこい顔に笑みを浮かべた。
「おお、入ってくれ」
オーク材だろうか。淡い色の板壁に囲まれた部屋は広く、その右手には数々のトロフィーや賞状が並ぶ。
「こっちだ」
織原は隣部屋に続くドアーを開けて、2人を招き入れる。
そこはミーティングルームだった。
その隅に置かれたイスに3人で座ると、織原は急に真面目な顔になり村瀬に言った。
「例の佐伯栄治殺害の件だが……」
歯切れが悪い。村瀬は黙って次の言葉を待った。
「……その…捜査を中止してくれ」
織原は両手をヒザに乗せ、村瀬に頭を下げるように言った。
その目は赤く充血していた。
「ど、どういう事です!訳は!」
村瀬は思わず立ち上がり、声を荒げた。
「すまん…」
織原は頭を垂れたまま、声を絞り出す。だが、村瀬の気持ちは収まらない。
「こ、ここ数日、必死になって追って…やっと手掛かりを掴んだのに…それを棄てろって…理由は何なんですか!」
エキサイトする村瀬。課長は彼の両腕を掴むと自重するよう促した。
村瀬は大きく息を吐くと、ゆっくりとイスに座り直した。
「先ほど、本庁刑事局の人間が私のところに来たんだ…」
織原は顔を上げて語り出した。
「本庁の…刑事局?」
それは、ほんの2時間前の出来事だった。