脱衣麻雀殺人事件(事件編)-1
夜の11時をとうに回った時間。とあるマンションの一室の、缶ビールの空き缶やスナック菓子の袋などが散乱した部屋の中に、四人の男女がいた。
彼らは床にじかに腰掛け、緑色のマットが敷かれたテーブルを囲んでいた。それぞれの前には、13つの牌が並んでいる。
彼らは麻雀をしているのだ。
戦局は現在、一位と四位の間にも大きな差はない拮抗状態。あがったヤツが暫定トップになるといった感じだ。
(どうしよう……)
自分の持ち牌を何度も眺めながら、長い髪をゴムで束ねた女性――田和津ナナは、悩んでいた。まだだれも立直(リーチ)はかけていないが、なんとなくやばい気配がしているのだ。
彼女としては捨てたい牌がある。しかしそれを捨てると、放銃(ロンされること。つまり点を取られること)されそうな気もしている。安全牌を切って逃げるか、危険牌を切って勝負を挑むか。
ナナはしばらく悩んだ末に、牌に指を当てた。
「えーい! オンナは度胸!」
そう言って彼女が切ったのは、筒子(ピンズ)の五。かなりの危険牌だ。
そして、賭に挑んだ彼女は――
「ロン!」
ちょうど対面にいる坊主頭に不精髭の男――同六龍之介の勝ち誇った顔に、敗北を告げられる形になった。
「ちょ、マジ!?」
得意満面と言った顔で自分の役を見せる龍之介。その牌は、白が三枚、發が三枚、そして中が三枚。後は索子(ソウズ)の1が二枚と筒子の5、6、7。
「ダーイサーンゲーン!」
龍之介の出した役は、大三元という役満(最強の役)の一つだった。ナナはあっという間にハコワレ(点棒、つまり持ち点が底を尽きること)である。
ハコワレとなった人は、自動的に四位になる。つまりナナが、最下位に決定したのだ。
「んー! 悔しい!」
憎たらしい笑顔を浮かべる龍之介を見て、やっぱり安全牌を切ればよかったとナナは早速後悔した。
「んじゃ、田和津は罰ゲームだな」
「はーい……」
ナナから見て右側に座っているこの部屋の主――小荒井空太に言われて、ナナは仕方なしにといった感じにそう返す。
「ナナ今日負けてばっかだねー!」
カラカラと笑ったのは、ナナから見て左側にいるツインテールの女性――土成千穂子だ。
ラッキーなのか、それとも実力か、今日まだ一度も負けていない千穂子に言われると、さすがにナナもムッとした。
「見てなさいよ! 次は絶対アンタを負かしてやるから!」
敵愾心を剥き出しにするナナ。しかし千穂子は、心外そうに目を丸くする。
「ひどおい! なんでわたしだけえ!? 大三元だしたの龍之介だよ!」
「だってお前だけじゃん。今日負けてないの」
龍之介が横から口を挟んだ。
が、どうやらそのことに千穂子自身は気付いていなかったようだ。しばらく考えるような仕種をして、「そういえばそうだ」などと言う。
「わたしだけなんだねー」
憎たらしく笑う千穂子。今日負け続けのナナは、こいつ、思い切り頭はたいてやろうか、と本気で思った。
(……いつかホントにやってやる)
多分に自分の運のせいなので、どこにも持って行きようのない怒りを、理不尽にナナは千穂子にぶつけることにしたが――それはさておき。
「じゃあ、そろそろ罰ゲームといきますか」
「んだね。さあ張り切って!」
「ブラかパンツ、どっちかだねー」
続けてしゃべる三人に、ナナは曖昧な笑みを返した。
「やっぱり、やんなきゃダメ?」
「ダメー」
三人の声が、キレイに唱和する。