純白の訪問者-3
「ところで〈トスカーナ〉って何処にあるんです?」
「…後で地図を送る……」
敦は変わらずそっぽを向いたままだ。可愛らしいと思ってたが、少しムカついてきたようで、
「分かりましたよ!どーも、お邪魔しました!」
声を荒げためぐみは、敦のデスクに缶コーヒーを〈ドンッ!〉と置いてツカツカと出て行こうとする。
「楽しみにしてろよ」
背中越しの優しい言葉に、振り返るめぐみ。敦は缶コーヒーを飲みながら、にっこりと笑った。
「…はい…」
昼過ぎには雪は止んだ。だが、空は鉛色の曇が低く垂れ込め、気温が下がる夕方から降りそうな気配だ。
「あ〜あ、雪止んじゃった…」
窓の外を眺め、恨めしそうに呟くのは沙耶だ。
冬休みに入り、知佳子の家に行って一緒に勉強をしていた。来年には高校受験が待っている。
お互いに目標を持った。
沙耶は看護師に、知佳子は再び平嶋夕子のいるギブッツに戻るべく、教員免許を取るために進学校に進む。
「ねぇ、チカちゃん!」
突然、沙耶は明るく言った。知佳子は教科書に目を落としたまま、
「何?沙耶ちゃん」
「今日ってさ、イブじゃない!」
「それで?」
知佳子は相変わらず教科書から目を逸らさずに相づちを打つ。
「敦に会いに行こうか?」
すると知佳子の手が止まり、顔を上げて沙耶を見た。その目は困惑したような表情だ。
沙耶は知佳子の表情から〈まずい〉と思ったのか、
「そ、そうだよね…私達受験生にクリスマスは……」
そこまで言った時、知佳子は沙耶の言葉を遮るように、
「いいね!それ。行こうよ!」
途端に沙耶の中から力が抜けた。
「もう〜!チカちゃ〜ん」
だが、知佳子は何の事だか分からず、
「どうしたの?沙耶ちゃん」
「何でもないよ」
沙耶は諦めたように笑ってみせる。
「でも……突然行ってお邪魔じゃないかな?」
「大丈夫じゃない。どーせ〈仕事、仕事〉だろーし。あの、めぐみってお姉さんも入れてさ」
「そうね!」
沙耶の提案に知佳子も賛同する。
「じゃあ夕方6時頃に行こう!ビルの前で待ってりゃ、お姉さんが出てくるから」
知佳子は頷くと時計を見た。まだ2時過ぎだ。
「じゃあ、それまで急いで勉強やろうよ!」
途端に沙耶は顔を曇らせた。
「は〜い…」