ベルガルド〜美しき恐怖〜-4
「ここはね、ヨンウォン教の教会なんだ。ヨンウォン教っていうのは、最近この国で盛んな宗教なんだけど…それで、この国は変わっちゃったんだよ。」
彼は悲しそうに目を伏せる。
「私もうわさには聞いているけど、どうしてなのかしら。」
「うんとね、一生懸命生きる必要がなくなるんだって、みんな言ってる。僕にはわからないけれど。」
私は首を捻った。
一生懸命生きる必要がなくなる…?
「みんなが平等になるんだって聞いたよ。だけど、僕はどうしても理解できないんだ。」
この子が悲しい顔をすると、私まで悲しくなってきてしまう。
不思議な子だ。
その時、彼の表情が強張った。
神父様が立つ台のような所の両脇に、赤いカーテンが掛かっているのだが、その布が少し、揺れて人影が見えた。
「!!?」
私は先ほどの黒装束の集団かもしれないと思って、身構えた。
ベルガルドが負けるとは思えないけれど、何人かは追ってくる可能性がある。
「あなたは、ここから逃げて。私と一緒にいると危ないの。」
いくら私が言っても、その男の子は動かなかった。
真剣な顔でカーテンの方を見ている。
「ソッチジャナイヨ」
「きゃっ!?」
急に背後で声がして、私は振り返りながら思わず叫んでしまった。
膝がガクンと床に着く。
いつの間にか人影が背後に回っていて、その人影から私を守るように男の子が立ちはだかっていた。
「メア姉ちゃん下がっていて。」
その子は微笑んでいたときとはガラリと変わって、急に頼もしくなっている。
わけが分からない。
人影が歩いて来る。
月明かりに照らされて、その姿ははっきり見えるようになった。
煌く長い金色の髪。透き通るような白い肌。そして、ばら色の頬と唇。
長い睫に縁取られた大きな目は、こちらを見据え逸らさない。
スタイルも良く、白いシルクのドレスがよく映える。
私は今までこんなに美しい人間を見たことがなかった。
通常では考えられない程に、神がかり的な。
「あ、あなたは…誰?」
「僕が答える必要あるのかな?」
『僕』と自分のことを呼ぶその女性は、ふわりと微笑む。
私は目の前のこの女性が、恐ろしく感じた。雰囲気が、異質だ。
「ここは僕の場所だから、誰が勝手に入ってきたのかと思ってね、見に来たんだけど…」
一歩前に踏み出る。