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ベルガルド
【ファンタジー その他小説】

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ベルガルド〜美しき恐怖〜-3




冷たい。
息が苦しい…。

そう思ったのは気のせいで、私は水の中でも息をしていた。

「え…何で?」
暗いのは相変わらずだが、手を伸ばすとぶよぶよとした膜のような物に守られていることに気づいた。
私は間違いなく川に落ちて、流されているはずなのに。
(ひょっとしてこれも魔術なの…?)
そう思い当たると、ほんのわずかだが、薔薇の香りがするように思えた。

私はもがく様に必死に、手を伸ばすと、右手が川から出て、ひんやりとした風を感じる。
空気に触れるとこの魔術も解けてしまうようで、右手から徐々に膜が剥がれていった。
右手、胴体、顔…
まだ水中にいるにも関わらず、容赦なしに剥がれていく。

「ちょっ…まだ…ゴボッ」

それから私は無我夢中で、草を掴み、自分の体を引っ張り上げ、必死の思いで陸地に上がった。
しかし、すっかりびしょ濡れになってしまい、吹いてくる風に身を震わす。
呼吸が落ち着く頃には段々と怒りがこみ上げてきた。

(かよわい少女を川に突き落とすって、どういうこと!?魔術かけるなら説明くらいしておきなさいよ!!)

なんとなく「モタモタしてるのが悪い。」っていうベルガルドの声が聞こえるような気がして、一層苛立つばかりだ。

これからどうしようかと思った時、
「お姉ちゃん大丈夫?」
と、背後から声をかけられたような気がした。
私が振り向くと、そこには1人の男の子が立っている。
「こんな夜に川で泳いでたの?」
その男の子は実に愛らしく、目をクリクリさせて私の顔を覗きこんだ。
「あ、あなたこそ、こんな夜に出歩くと危ないじゃない!」
「僕は大丈夫だけど…お姉ちゃんこのままじゃ風邪引いちゃうね。」
私は思い出したように、自分の体を見る。本当に寒くなってきた。
「僕が暖かい所に連れていってあげる!!」
にっこりと、微笑む笑顔に、つい逆らえなくなってしまった私は、導かれるままにある建物に連れて来られた。

「早く入って!!中の方が暖かいよ。」
「ここって教会…」

そうベルガルドにも言っておいた、川の下流にある教会。
扉には鍵がかかっておらず、すんなりと中に入り込むことができた。
その聖堂内部はは圧倒されるほどの美しさだった。計算された天井の構造。色とりどりのステンドグラスは、月明かりを浴びて光が内部にさし込んでいる。

何よりそこは暖かく、体の震えも止まった。

「お姉ちゃん名前は?」
月明かりの下で、初めてはっきりと少年の姿が見えた。
オレンジ色の柔らかい髪をしていて、その暖色に似合うような、相手を安心させる微笑を浮かべている。

(私の本名はマズイよね、こんな子供とはいえ…)

「えっと、メアリー…」
とっさにメイドのメアリーの名前を出してしまった。
「じゃあメア姉ちゃんだね!」
そう言うと少年は着ていた上着を私にかけた。
小さく、私が羽織るのは不恰好ではあったが、その心遣いが嬉しい。


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