トラ恋!秘めた想い--side.孝次---1
そんなこと、言ってほしくなかった。
あいつの……理香の口からだけは、そんなこと聞きたくなかった。
「ねぇ。あんた、叶絵って娘、知ってる?」
球技大会の帰り道、理香は少しニヤけた顔で、俺にそう聞いていた。
その前の好きな人がどうとかいう話の時点で、嫌な予感はしていた。
そんな話……今まで一度もしたことなかったから。
「いや、そりゃ知ってるよ。小中一緒だし、今も同じクラスだし」
……それだけじゃない。叶絵という娘は、確か理香の親友だったはず。
理香とその娘が一緒にいるのを、昔からよく見かけていた。
その事実だけで、これからの話の展開は簡単に予想ができる。
願わくば、その予想が外れてしまえばいいのだが……
俺は視線を地面に落とし、ほんの少しの期待と、そしてある種の恐怖感を抱きながら、理香の次の言葉を待った。
「どう思う?」
「…は?」
「だから。叶絵のこと、どう思うの?」
……やっぱり、そういうことか。
いつも、いつもそうだ。俺の期待を、こいつはいとも簡単に、あっさりと裏切ってくれる。
「まぁ……大人しいけど……かわいいんじゃないか?」
僅かだが確実に受けたショックのせいか、俺はよく考えもせずに、そう口走っていた。全く的が外れていたわけではないが……
すると理香は、
「そっかそっか。ふふふっ」
と、明らさまな含み笑い。
……この笑い方には、見覚えがあった。
確かあれは、まだ小学生だった頃と記憶している。
―…
『あ、理香!』
廊下でばったりと会って、小さな俺は、とっさに理香を呼び止めた。
当時から学校内では、理香を含め、女子にはあまり話しかけないようにしていた。が、この時はどうしても聞きたい事があった。
『最近急いで帰ってるみたいだけど、どうしたんだ?』
家が隣、学校が終わる時間も同じという理由で、いつも帰りだけは一緒だった。
だがなぜか、その五日くらい前から、理香はバタバタと帰りを急いでいた。それも、どこか楽しそうに。
不審に思った俺が、その理由を問いただしてみたわけだが……