トラ恋!秘めた想い--side.孝次---2
『え〜、別に〜? ふふふっ』
と、妙な笑い方をしたかと思うと、軽快なステップを刻みながら、理香は俺の横を過がっていった。
その後ろ姿を見つめる俺の心境は、理香の横顔を見つめる今とよく似ていたと思う。
理由が判明したのは、それから一週間後だった。
はい、コレ。と手渡された紙袋。中には、薄緑色のマフラー。
この日は、俺の誕生日だった。
大事にしてよね、と理香が言い足したそれは、なんと手編みの代物だったのだ。
だから最近帰りが早かったのか、と聞くと、そんなの関係ないわよ、と返ってきた。
次の日からまた一緒に帰り始めた時点で、関係ないわけないことは明白だったが。
―…
ずっと、ずっと……興味が無いんだろうと思っていた。
異性関係とか、そういうことに……
でも、どうやら違うらしい。
理香が興味を持っていないのは「俺」に対して……ということか。
「おい、理香!」
気付けば俺は、自分でも驚くくらい大きな声を上げていた。
先に歩き出していた理香が、「なに?」とこっちに振り向く。
「俺……、俺は………」
言葉が…、思いが、勝手に込み上げてくる。
これほど自制がきかないなんて、初めてのことだ。
このまま、言葉にしてしまおうか……ずっと、内に秘めていた思いを
いっそのこと、伝えてしまおうか……好きだ、と……「ずっと好きだった」と
「…なに?」
ハッ、と我に返った。
首を傾げながら、理香は俺の言葉を待っていた。
自制心の戻った俺には、思いを言葉にする勇気なんて、ほんの少しも残っていなかった。
「……なんでもない。帰ろう」
自己嫌悪感が、頭に纏わり着く。
俯きながら歩き出した足が、やけに重く感じた。
全てを振り払うように、俺は早足で歩いた。
「変なの…」
すれ違い様、理香がポツリと呟いた。
俺はもう、何も返すことができなかった。
ただひたすら砂利の敷き詰められた地面を見つめて、早足で家へと向かった。