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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第20章-4

「気になるか?」

私はムキになって言い返す。

「当たり前でしょ!ほんとに…まるでハリウッドスターか何かみたいだったじゃない。」

「針なんとかはわからんが…あの中におまえより魅力的な女はいたろうか、なぁ?」

答えようと開いた口に、飃のそれが重なった。深く、嗜(たしな)めるような、そして刻み付けるようなキスだった。腹を立てるのが馬鹿らしくなるほど。

「…は…」

やっと離した唇を、舌でなぞられる。私のかすんだ視界が正常に戻るのを待って、飃がもう一度聞いた。

「言わなくてもわかったか?」

私はこくりとうなずくしかなかった。



廊下に出ると、さまざまな人とすれ違う。そのほとんどに、飃のような耳が生えていた。あれは狼…あれは狸で、狐狗族はさらに細かく黒狐、白狐、金狐、銀狐、野狐と分けられていて、今のところ金狐以外は全て見かけた。始めて狛狗族を見たけど、数は多くなかった。狛犬の狗族で、普段は八長のもっとも位の高い狗族の護衛をしたり、狗族ではない神族の近衛として働くのがほとんどなんだそうだ。

私は彼らから見れば普通の人間にしか見えないから、普通の人間には見えないはずの耳の辺りを凝視されて少し困惑している狗族もいた。



それから日が暮れる前に、カジマヤと、彼のお兄さんのウミカジ、そしてシーサー狗族の長、ウティブチに会った。今夜は日本の各地方を治める八人の長と代表が集まる。否が応にも緊張が高まる。

今夜宿に集まったのは、他に九州、四国、中国、武蔵、陸奥、蝦夷の六長とその付き添い。皆が皆、飃のように若い狗族ではない。緊張する事など無いと飃は言うけど…温泉に目がくらんで眠れなくなるほどはしゃいだ自分まで恨めしく思えてくる。そして、去年のうちに夫婦になった狗族が私たちのほかに何組か。あとは、祭りを目当てに集まった全国の狗族たち。



昼を過ぎたころ、飃をはじめとする長たちは、神社へ赴いて一足先に祭りの打ち合わせに向かった。

祭りのときだけ現れてちょっと踊って帰るなんて、そんな神様にご利益も何もあるのだろうかと私も最初は思ったけど、そんな考えが間違っていた事にいまさらながら気づかされた。

神社は神様の家とは違う。神社は、神様が天上から降りてきたときに宿るただの「座(ざ)」にすぎない。神社には「ご神体」と呼ばれる神様の依代が置いてあるだけだ。天上から降りた神が、その依代に宿るのでご神体と呼ばれるのだという。そして、神座(かみくら)転じて神楽の際、その依代に宿った神を称え、豊作の祈願をする…それが神楽の意味なのだ。

今回の神楽が執り行われる神社は、(今はとっくに代替わりしてしまったが)かつてこの地で小さな村の長をしていた狗族の命を救った恩人の、子孫が神主を勤める神社なのだという。それ以来狗族は、恩返しの意味合いも込めてこの神楽に毎年参加するのだ。



私は、日がくれるまでの時間をカジマヤとゲームコーナーで潰…すつもりが白熱し、狗族と人間の混合した人だかりを作った。そしてUFOキャッチャーでもレーシングでもシューティングでも、何故か私が負けた…。


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