飃の啼く…第20章-3
「あら、彼女?」
「え〜っ!?」
などと白々しく私に目を向けた。付属品を見るみたいに。
飃はようやくその女を引き剥がし、私を紹介した。べつに、私は紹介してくれなんて頼んでないけど。
「これは妻のさくらで…。」
途端に落胆の声があがる。
「残念だわ〜!」
「私たち、飃さんのファンなんです。」
何故そんな挑むような目で私を見るのよ!
「ああ、まぁ、友人だ。」
飃が付け加えたそのカテゴライズには双方異論があるようだった。5,6人の若い(いや、かなり年上も居るけど)女たちはいまだに飃の服の袖を握ったり、寄り添ったり…私はその手を払いのけたくてうずうずしていた。
「お若いのねぇ」とか、「お幾つ?」とか。無遠慮な質問を笑顔でかわす。多分引きつった笑顔で。飃は、また数人増えたファンたちに囲まれて、それでも無礼が無いようにサインに応じたり握手したり…なんてこと…飃はこのお祭りの神楽で、ファンを作って…おまけに凄い人気で…この人たちはどうやら飃を待ち構えていて…気付けば飃は記念撮影にまで応じて…そして私は、ありえないくらい嫉妬してるんだ。
「飃!!」
ファンの群れをかきわけて、飃の腕を引っ張る。
「行かないと!ほらっ!“遅れる”からっ!!」
何に遅れる心配も無かったけど、口実を作って逃げた。飃は、そんな私の必死な面持ちに始終笑っていた。
旅館は私が創造していたより豪華だったし、狸狗族の女将さんもとっても奇麗で感じがいい人だった。
「飃さんは去年のお神楽から大人気ですよ…ねぇ?」
女将さん直々に部屋に案内してくれる間に、飃をからかった。
「そんなことは…。」
と言いかける飃に
「いいえ、半年前からひっきりなしにお問い合わせの電話が来るんですよ…飃さんの止まる宿はここかって…もちろん違うとお答えしましたけれど。」
ふふふと笑う女将さんに、私はものすごく感謝した。
案内された部屋の前で女将さんと別れた。
「いい宿だろう?」
私の機嫌など意に介さず、飃が聞いてくる。改めてみると凄い宿だ。私のような高校生が気軽に泊まれる宿ではない。真新しい畳と、立派な柱。床の間にはかわいらしい花が生けてあって、手入れも、気配りも行き届いている。窓からは、きっと夜にもなればそれは素晴らしい夜景が見れるだろう。
「ねえ…。」
でも、この素晴らしい宿をもっと満喫するために、是非言っておきたいことがあった。
「あんなに有名人なんだったなら言ってくれれば良かったのに……」
飃は窓の外の景色から目を離して私を見て、とうとう噴出した。