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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第19章-8

「おい。」



飃の耳の中で、渦を巻く血潮の音が聞こえていた。立ち上がろうとする獄を黷が制し、飃は言葉を続けた。

「そこにいる…その女が宿すのは己の子だ…お前には勿体無い…。」

黷の考えはわかっていた。気がふれたと思っているだろう。あながち間違ってもいないのかもしれないが。

「ならば どうする?」

彼は、ゆっくりとした足取りで、呆けたように立ち尽くすさくらの元へ歩いていった。黷はそれをとめるでもなく、気の違った男がどのように死んでいくのか、興味深げに見ていた。



飃は、半ば寄りかかるようにさくらを抱きしめた。



「さくら…。」

彼女の身体は燃えているのに、触れた肌は凍っているように冷たかった。それでも、その懐かしい匂いは、かつてのさくらのものだった。意識も、意思、尊厳も奪われて、人形のように立ち尽くす…それでも彼女は美しかった。憎しみに身を焼かれて、全ての生命を奪わんと声を荒げた彼女…それでも彼女は、飃の腕の中で、「飃の愛するさくら」以外の何者でもなかった。

「ああ…可哀想に…さくら…。」



そして、回した腕に持ったままの北斗を、すべて液体にしてさくらの体の中に注いだ。

それは二つの伝説の武器のうち、残った一つまで失うことを示し、彼らのこれからの戦いがどういう局面を迎えるにしろ形勢の不利を招くことを示し…

飃が、復讐よりも勝利よりも、さくらの命を選んだことを示していた。



きつく抱きしめたまま、黷には背を向けて、気づかれないように、じっと動かなかった。



北斗が、飃の頭の中で別れを告げた。

―さらばだ、飃……



また、逢おう。



そして、彼はそのまま死んだようにそこに立ち尽くしていた。そして、愛するものの名前を呼ぶ。

「さくら…。」



「   何 ?」

黷が、何が起こったのか気づいたときにはもう手遅れだった。飃の大きな胸に包まれて、涙を流しながら彼の言葉に答えたのは、もはや操り人形でも、あなじでもなかった。


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