飃の啼く…第19章-3
―殺してしまえばいい。全員。そうして、恐怖も不安もない、我らだけの世界で暮らそうよ……
「あと30秒。」
全ての汗腺が弛緩したかのように、汗が吹き出る。そのくせ、頭の中ではたくさんの記憶が走馬灯のように…縁起でもないとか考えてる状態ではなかった。
初めて学校で会って、ぎこちないながらも交換したメルアド。他愛ないメールのやり取りで笑ったこと。同じ先生に憧れたこと。同じ部活で笑ったり、泣いたりしたこと、いつまでも友達だよと、交換し合ったペンダント…
初めて彼の目を覗き込んだときの、美しさに圧倒されたこと。愛を交わす喜びを知ったこと、死線を生き延びて二人で抱きしめあったこと。一生添い遂げると、心の中で何度も、何度も誓ったこと。
10
「わた し………」
9
選べない…
8
「わたしは……」
7
自分の声じゃないみたいな声が
6
私の望むものを
5
言葉にして
4
解き放つ
3
「お願い…」
2
1
「何でもします・・・だから…二人を、どうか…」
風さえ吹かなかった。
世界は完全な無音だった。
「不正解だ。」
顔を上げたとき、長い刀を持った、見覚えのある顔が、飃の背後に立っていた。