難読語三兄妹恋愛暴露~長女Ver.~-7
「あれ?」
ポチはふらふらとしています。
「あれれれ…」
傍にあった石を踏ん付けたかと思うと、まるでコントのようにポチはベシャッと転んでしまったのです。
「いてて…」
そんなポチを長閑は唖然として見ていましたが、何かに気付いたのか声を上げました。
「ポチ!早く立ち上がりな」
ポチが倒れていた場所は道路の真ん中。いくら車通りの少ないとことは言え、ずっとそこに寝ていれば確実に事故ります。
長閑の言葉にポチはのろのろと起き上がり始めました。
「早くしないと車きちゃ…」
長閑には車のエンジン音がものすごく近くで聞こえました。
見てみるともうすぐ傍まで車が迫っていました。しかも、ポチには気が付いていないかのように速度が落ちる様子はありませんでした。
「ポチッ!危ないっ!」
「へ?」
その瞬間、長閑の瞳は反射的にギュッと固く閉じられていました。耳をつんざくようなブレーキ音。それがコダマのように耳の奥で鳴り響き、辺りはしぃんと静まり返りました。
恐る恐る長閑は目を開けました。
「ポ…チ?」
道路の真ん中でポチが仰向けに倒れていました。
「ポチ?」
長閑はゆっくりポチに近付いていきます。
「ポチ?」
呼び掛けても返事はしません。
長閑はそっとポチを抱き寄せました。すぐ隣にタイヤの擦れた後が生々しく残っています。
「ポチ」
長閑はポロポロ涙を零しながらポチを揺すりますが、ポチの首はカクンカクンと力無さげにそれに従って動くだけでした。
「あ、そうだ…きゅ、救急車…救急車…」
長閑はポケットから携帯電話を取り出そうとしましたが、ガタガタと震えている手では、何とか取り出せてもボタンを押すことは出来ません。
「あ…」
カシャンと音を立てて携帯電話が地面に落ちました。
長閑はポチを抱き締める腕に力を込め、泣きながら
「何もしてあげらんなくてごめん…、ポチ…」
と呟きました。
後悔したってもう遅いのです。
「救急車…」
初めは蚊の鳴くような声でした。
「救急車…救急車…。だ、誰か…!救急車あぁ!」
長閑は泣きながら叫び続けました。ずっとずっと叫び続けました。