WITH YOU...sometime ago-1
「沙樹ネェたすけてぇッ」
ドアを開けた瞬間泣きつかれたので一瞬誰かわかりかねたが、自分を呼ぶカワイイ声とその呼び方で判断した。
「優衣香?なした??」
優衣香(ゆいか)は、前作で紹介した沙樹の勤務先sevenのスタッフで、1つ年上と聞いていたのがなんと実際はふたつも年下で。(身分証がいらなかったらしい。お店には内緒)
今では本当の妹のような存在だ。
「あっちゃんがまた優衣香のお給料でスロット行ってご飯食べていかれへん」
―はぁ。またか…
彼・淳は金にかなりルーズで一緒に住む優衣香のヘソクリやら食費やらで遊びほうけている。
「だぁから言うてるやん。やめときって。昔のウチみたいなるで」
そう言いながら優衣香に万札を渡す。
「もう沙樹ネェからこれ以上借りひんって決めたからしまっといて。」
優衣香は受け取らず手を押し返した。
「沙樹ネェの昔の男ってどんな人やったん??」
「ハハッそりゃもうヒドいやつやったで話せば長いけど…」
幸いまだ勤務時間までだいぶ余裕がある。
「昔話、聞きたい?」
休憩室に備え付けてあるコーヒーメーカーでコーヒーを落とし始める。
優衣香はもう泣きやんでワクワクと目を輝かせていた。
最初は中2ん時やったなぁ――。
私は思い出に浸りながらゆっくりと話す。
―ウチ中学3年間ずぅっとバスケ部やってんなぁ。まぁ相変わらず問題児やったけど…(笑)バスケだけは真面目にやっとってん。
ほんで、夏ぐらいかなぁ…男バスの和志って男にいきなり告られて、それが始まりやった。
くっついては別れ、別れてはくっつきを繰り返して結局高2までズルズル。まぁそれはそれで楽しかったし良い経験やったと思うねんけど。
和志は別れるたんびに他の女作って、一週間ぐらいしてから「やっぱお前やないとアカンわ」言うてウチんとこに帰ってきてた。
――よっぽど沙樹ネェが好きやってんなぁ
優衣香が微笑みながら口を挟む。
―そぉ思っていい気になったウチが一番アカンかってんなって今思うわ。
和志はウチやないとアカンって思ったから…あんなアホなことしてしもた。
不思議そうに覗き込む優衣香に落ちきったコーヒーを淹れてやる。
自分はブラック。優衣香はミルクと砂糖をたっぷり入れる。
―和志がつるんでた友達がな、暴走族に入って、和志までそのチームに引っ張りこんだんや。
まぁ本人らは族やない、走り屋や言いはってたけど周りから見たら…なぁ。
あとはもうとんとん拍子に悪いことの連続や。
和志はイキって悪いことばっかり手ぇ出し始めるし、ウチはウチで和志の女やからって理由で怖いおネェさんらに何回も呼び出された。それなりにカッコよかったからなぁ。
――それで沙樹ネェはどうしたん??
―もちろん全部やり返したったッあいつらみたいに汚いことせんと素手でなぁ。
と、拳を作って笑っておく。
その後誰も口が聞けないくらい怯えたり、レディースを2、3個つぶしてやった事などは優衣香には伏せておく。
―んでさ、こっからがもう最悪や。上のモンがな、そん時の頭が捕まるから言うて新入りから10〜20万巻き上げよってん。
高校行かんと就職したんはエェけどすぐやめた和志はもちろん払えんし、高2やったウチのバイト代なんか雀の涙。
それまでは悪い事してさんざん稼いどったせいでいろんなとこからマークされて、和志にはもぉどうしようもなかった。
そやけど金払わんかったらどんな目に遭うかわからへん。
そこで…ウチや。