ベルガルド〜横転〜-1
とある教会に行き着いた。
周りには、セシルもカイもベルガルドも…誰一人いない。
側にいるのは小さな男の子が一人だけ。
「最悪…。生きて帰れるか分かったものじゃないわね…」
私は舌打ちをして、自分の浅はかさを恥じた。
ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
これも全ては…
「あいつが…っ!!!」
―5時間前
一夜が明け、昼過ぎになるとスベニ国に到着した。
スベニという国は本来、自由で活気に溢れた国だったらしい。
しかし、5年ほど前からある宗教が蔓延し、他を許さない閉鎖的な国になったと聞く。
「着いたよ。二人とも疲れたでしょ?」
ベルガルドの従者カイが、停車させた馬車の扉を開け、私たちに話しかけてきた。
ウェーブがかった滑らかな金髪を輝かせ、透き通るような青い瞳でこちらをのぞき込む。すらりとした長身で佇むその容姿は、今まで見たこともない程の美形だ。
女の私が羨むくらいに。
そうそう、ご挨拶が遅れました。私の名前はトゥーラ=アーレン。職業というわけじゃないけれど、一国の女王やってます。
慣れない馬車での移動と、昨夜の魔族の襲撃のせいか、正直、若干疲れています…
だけど、ここまで来たらそうも言っていられない。
「問題ないわ。行きましょう。」
私は馬車から降りた。
辺りを見回すとわかるのだが、スベニ国の関所はアーレン国のそれより遥かに静かだ。
国内に入ろうとする者も、出てくる者も見当たらず、閑散としており、ただ砂埃が風に舞い、わずかな草がざわめくだけ。
そんな様子を、赤い髪の少年が綺麗な姿勢で眺めていた。燃えるような色の短髪は風に吹かれ、炎が揺らめいているようにさえ見える。
その鋭く赤い目は、まっすぐと前を見据え、微動だにしていない。
まだ幼く、派手な少年を不覚にも一瞬、美しいと思ってしまった。
私は昨夜のことを思い出す。
馬車にいながら魔力を探っていた時、とてつもない魔力を感じた。
大地を揺るがし風を起こし、熱を発生させる程の強い力。
目には見えないけれどベルガルドの力だと、一瞬で確信した。
その時感じたのは、単純に恐怖。
でも―…
彼はヒトである私たちを心配して来てくれた。あんなに焦って、取り乱して。
言動に相反して、本当は優しい人なのだと、既に分かっている。
ベルガルドがこちらを見た。
心臓が跳ねる。