ベルガルド〜横転〜-3
「な〜んか、静かな国。スベニの国中がお葬式みたい。」
外の様子を覗きながら、セシルは言った。
私も同じようにして景色を眺めると、彼女の言うことが実感できる。
見える景色は静かで、皆家の中に篭もっているのか、道ゆく人は少数しかいない。そのわずかに認識できるヒトも俯いていて、まるで喪に服しているようだ。
「これじゃ…聞き込みも上手くいかないかもしれないわね。」
一抹の不安を抱きながらも馬車は進んで行く。
グラッ
「え…」
馬車から見える風景が急におかしくなった。
家が見えなくなって、空が見える。
「…空っ!!?」
そう叫んだ瞬間、私たちは馬車の内壁に激しく打ち付けられた。
肩に鋭い痛みが走る。
「痛っ…つぅ…」
私は目を開くと、肩を押さえながら跳び起きた。
「…あっ!!大丈夫!?」
セシルが下敷きになって、私を支えてくれていた。白く細い手足には既に紫色に変色した痣が見える。受身もとれず、馬車のあらゆる出っ張りにぶつけたのかもしれない。
そこに更に私の体重が乗っかって…。
想像するにも恐ろしい。
彼女は「大丈夫!」と言って笑っているが、とてもそうは見えなかった。
「な…に、今の…」
目覚めたカイは頭を押さえながらそう言って、むくりと起き上がった後、現状に目を見開く。
床が横にあって、壁が下にある。
「これって…馬車、横転したの…?」
カイが改めて言い放った台詞に、私はがっくりと肩を落とした。
出入り口の扉が上側に来ているのは、不幸中の幸いかもしれない。なんて考えながら、扉を開ける。そこには赤みがかった夕方の空が広がっており、私たちの状況に似合わず、穏やかだ。
「ちょっと!!ベルガルド、一体どういうこと!!?何やって…た…」
私は言葉を切って驚愕した。
「どうもこうも、ねぇよ…」
「え…あ!!」
車を引いていた馬がいない。
こんなことは初めてだ。
「この道の途中で急に馬の様子がおかしくなってな、散々暴れた後に、逃げていきやがった。お前ら全員無事か…?」
「いえ、セシルが怪我をしているの。今カイに診てもらってるけど、たぶん…」
「そうか…」
しばらくして、横になった馬車からカイがひょっこりと頭を出した。