甘辛ウィルス-1
少女は過去の自分を空に浮かべた。
一人の男性を意識し始めて、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月と経ち、それでも愛して止まなかった壮絶な日々。
どれだけ熱烈にアピールしてきたか、自分でも数え切れないほどの回数。 けど、その男性は振り向いてくれなかった。
何故か? それは度々戦闘を繰り広げる男性本人にしかわからない。
だから少女はこう思った。 自分もあの人の力になれれば…きっと振り向いてくれる。
結果は悲惨なものだった。
ゆっくりと時が進み意識が薄れていく中、少女は自分の気持ちにやっと気付く。
別に振り向いてくれなくたっていい。 私はただ、この人の傍に付いていたかっただけなのだ、と。
胸を貫かれ、呼吸が出来ない状態であるにも関わらず、少女は最後の力を振り絞った。
「あなたに、想いを…懸けれて……嬉しかった…」
これで思い残すことはない、あの人に想いを伝えられたのだから。
あとは天からずっと見守っていよう───ヲトメはそう誓った。
その華奢な亡骸を抱き、男性は泣いた。 ひたすら泣いた。
高らかに、狼が遠吠えをするように、叫び泣いた。
「ふふふ…殺されていった女と共に、セキトリマン、お前もここで死ぬのだよ」
「…つっぱり…それは肉をぶつけているようで、肉をぶつけている技ではない……!
魂をぶつける技なのでゴワス!」
◇
なんとなく目元に触れてみて、初めて確信しました。
私は涙を流している。
「…ハンカチだけじゃこの涙は拭えませんね。 ティッシュでもあれば」
「うえぇぇん……てっしゅ…てっしゅが足りませんんん……」
開始早々とてつもないキャラ崩壊! 今の声は私ではありません。
私の隣で号泣している聖奈さんです!
「ヲトメが…ヲトメがあぁ…」
「…………聖奈さん」
もうちょっと、こう、目を手で隠してしくしくという風に泣いてくれれば良かったんですけどね。
涙と同時に乙女のプライバシーな液体を思いっきり分泌されずるずると音を立てて泣かれると、フォローの仕様がないこと極まりないです。
「凪さぁん…てっしゅ…持ってませんかぁ…?」
「…生憎ですが、ポケットティッシュしかなくって…」
「それでいいんですぅ…!」
奪われました。