甘辛ウィルス-8
直接的ではなかったけど、ある種虐待と言える行為を受けていた。
…" 親の義務を果たそうとしてくれない "…それ自体が虐待行為。
恐らく養父は僕を見捨てていた。 元いた家族が居なくなったショックから生まれたんだと思う。
僕は必死に養父を励ました。 …言葉はあまり覚えてない。
けれども効果はなかった。 振り向いてもくれなかった。
そして時も何年か経ってしまい、気付いてはいけないことに気付いた。
『親じゃない親なんて必要ない』
改心してようやく仕送りをしてくれるようになったんだと少しでも期待した僕が悪いんだ。
「くっ……うぅぐっ…は…」
「結局…わたしは何を生き甲斐に生きていけばいいんだ…? いいや……何もないから死ぬべきなんだ…」
爪が皮膚に食い込み、痛いと感じたその瞬間、首を絞められていることに気付いた。
辛うじて呼吸はできるものの、意識が薄れていき体に力が回らない。 脳信号が送れないんだ。
凪に抱き締められて呼吸ができない時は何十回もある。 だが命の危険性はまったく感じなかった。
…全然違う。 首と胴体じゃ比べものにならない。 そもそも相手が間違ってる。
そういう問題じゃないか。
素直に誰かの力を借りるべきだったかな。
やらないで後悔するよりやってから後悔した方がよっぽどいいと痛感したよ。
まだ死にたくないや。
◇
今夜は雪柳宅で晩ご飯を御馳走になっています。
なんだかよくわからない和風料理ですが、なかなかに美味です。 聖奈さんの料理だから当たり前なんですけどね。
でも食が進まないのはどうしてでしょう。
「…………お気に召しませんでしたか?」
「いえ……………………」
長い沈黙が続く。
「…やっぱり…食卓は大勢で囲まないと…ですよね…」
「…それもそうですが……………」
次の言葉を繋げたかったはずなのに、声が出なかった。 …私らしくない。
「………」
私がちゃんと返事をしなかったせいか、聖奈さんも黙り込んでしまう。
嫌な予感がするとか、陳腐なレベルじゃない。
" 身近で最悪の事態が起きている "…と、確信した。
「あの…ちょっと」
「凪さん?」
席を立つと同時に、玄関先へ走り出す。
どこで何が起きてるかはわからない。 ただ、一つ一つの可能性を虱潰しに探さなくちゃいけない。
可能性の数は無限大だけど、最悪の事態は止めなくちゃいけない。