甘辛ウィルス-6
「あっ」
一瞬の間に、透くんがわたしの身体全体を包み込むように抱きしめていた。
驚きで袋を落としてしまったけど、わたしにとって気にするべきところはそんな些細なことじゃなかった。
「ちょっ…と…!?」
「理由を教えてくれないと、もっと恥ずかしいことしますぜ」
わたしを抱え込む形で抱きしめる透くんの手が、丁度よく目の前にきて涙を拭ってくれた。
「まっ…周りが……」
「見てるからどうした。 改めて聞き直す、誰に何をされた?」
「…………」
自分でもよくわからない…なんて絶対に言えない。
わたしの涙はどうして流れているのか、誰にもわかるはずがない。
「他人に何かをされた訳じゃないです…」
「じゃあどうして?」
「…嬉しくて…悔しくて…寂しかったからだと思います」
◇
なるほど。
言っちゃなんですが、たぶんアレですね。
外国人が日本の侍やら忍者やら納豆やらを特別視するケースと概ね一緒ですね。
聖奈さんもそんな感じでしょう。 『ジャパニーズヲトメスピリッツ』みたいな。
…フランスの人でしたね。 あちらの言語は対象外ですが…
『じゃぽーねずヲトメえすぷりて』
" Japonais WOTOME esprit "…でしょうか。
それよりも聖奈さんはいつ帰ってくるんですか。
このままだと私はずっと『セキトリマン 第三十二張・散る花枯れる花、そして真新しく光る花』を視聴することになるのですが。
今見てるのと合わせて、もう四回目ですよ。 せめて続きを見させて下さい。
というか私、いい加減に疲れてきました。
そろそろ部屋の隅っこで体育座りをしながら人差し指で延々とのの字を書きたい衝動に掻き立てられるところです。
何が「くらえ! つっぱりブレイカァァァ!」ですか。 もっと相撲風に捻りましょうよ。
敵さんも「ぐわー」とかふざけた叫び声でやられて、たかがつっぱりでしょう。
…いや、戦闘面を除けばいい作品だと思いますよ?
つーかぶっちゃけ飽きました。
「まあ最初の内は誰でもそうだろ」
「…こういう系統はあまり見ないのですが。 やっぱり慣れませんね」
「しかし予想通りすぎて驚いた。 聖奈さんもある意味鬼だわー」
「え、何が…………え?」
「よう、ニーズ」
反射的に手が動く。
膝に置いていた拳を振り上げて、肩の上にいる物体に裏拳を浴びせる。
見事人中心辺りに命中した模様です。
「すみません、遅くなりまっ、透くん!?」