甘辛ウィルス-3
「……………急だが明日の夜、そちらに向かう」
「!? 何を…」
「…ちゃんと金も持っていく」
それっきりで会話は終了した。
養父は僕にとって、最高で最低の悪魔だ。 悪魔に会う気なんて起きるわけがない、…普通だったら。
少しでもリラックスをしておきたいが為に現在、朱色の空の時、僕は散歩をしている。
どうせ効果はない、けど上辺だけでもこうしておかなきゃ気が済まない。
あの人に会う為の下準備とでも思えばいい。
適当に通りすがった公園の中に入り、ベンチに腰掛けた。 と同時に腹の虫が鳴る。
「…お金くらい持ってくればよかったな」
誰に言ったわけでもない、独り言を呟いた。
このまま夕日が落ちて月が昇り太陽に変わる様をずっと見ていられたら…。
「やっぱり断らないで行けばよかったなー…」
セキトリマンか。 今頃三人で視聴してることだろう。
たしか聖奈さんは透と違ってヲトメってキャラが好きなんだっけ。 最初知った時は凄い驚いた覚えがある。
凪はあまり詳しくないから…ついていけてるかな。 透とケンカしてたり…かな。
「お隣、借りますね」
横から声が聞こえる。
「え?」
その方向を向くと、思いも寄らない人物がいた。
「よっこいしょ…ふう…おばさんくさいですね、わたしったら」
「えっ……あれ? 聖奈さん? どうしたんですか? みんなでセキトリマンを見てたんじゃ…」
いつものエプロンは装着していないけど…紛れもなく聖奈さんだ。
一瞬、聖奈さんの姿をした凪か!? と警戒してしまった僕を殴りたい。
「ええ。 ちょうど二十分前に見終わりまして。 今凪さんが家で繰り返し見てると思います」
…なんとなく予想通り。
「それで晩ご飯の買い出しも終わり、ふとここを見てみたら将太さんがいて」
なるほど、重そうに持つ大量のビニール袋はそのせいか。 …しかし買いすぎじゃないだろうか。
「見たところ野菜だらけですね。 今夜は何を作るんですか?」
「お料理番組を見て学んだのですが、筑前煮を作ってみようと思いまして」
「へえ…炒鶏ってヤツでしたよね」
「はい。 基本野菜を多めに使おうと考えております」
調理したことはないものの、何度か口にしたことはある。
微妙に甘い煮付けものだったな。
「あといつもの利休揚げの食材を買いました」
「利休揚げ? 聞いたことないなあ」
「透くんがよく美味しい美味しいって食べてくれるんです。 今度、是非お食事にいらっしゃいませんか?」
「…喜んで行かせてもらいます」
すると聖奈さんの微笑みがレベルアップしたかのように輝いた。 そんな気がした。
「さて……」
一息漏らし、聖奈さんが立ち上がる。
「あっ、途中まで運びましょうか? 重そうですし…」
「いえ、まだ帰宅はしませんよ。 …将太さん、ちょっとここで待っててもらえますか?」
「え? ……はい」
僕が肯定してから、聖奈さんは荷物をベンチに置いて公園を出ていってしまった。