小悪魔と盲目なるワンコちゃん-5
彼とは知り合ったばかりだから、いろいろと気疲れて当たり前。
どんどん時間が無駄に過ぎてゆく。
時間さえも惜しがるあたしは、苛立ちが募るばかり。
彼の言わんことはわかってる。
つまり！
ラブホテルだ！
つまり！
ヤリたいんだ！
ふ・ざ・け・ん・な〜〜〜〜っっ！！
だけど！
彼はワンコちゃん！
所詮あたしからのＯＫがないと行動に移れないほど、うじうじヘタレなヤツ。
これだけは有利だな。
本当ならさっさと車から降りて１人で家に帰ればいいけど、タクシーも通らない、こんな人気もない真っ暗な場所で、彼の感情を逆撫でしてみぃ。
ヤバいじゃろ？
彼、男だもん。
女の自分、力の無さはわかってる。
だから、決めたんだ。
早く帰りたい。
ここは、あたしが、譲るしかない。
「ねぇ、キスしよ？」
ガバッ！
彼の期待スイッチＯＮ！
チュッ。
だけど、やっぱり舌まで絡んで来ない。予想的中。
ふふっ、彼がワンコ気質で助かった〜〜。
ご主人様のあたしが行かなければ、彼も来ることはない。
軽く唇が触れ合っただけで終了。
「ねっ、もう帰ろうよ。あたし、疲れちゃったぁ〜眠ぅ〜」
わざとぶりっ子してみる。
いい歳して何してんだか。
こんな時にアニメ声が出てしまった自分に、殺ス！殺スっ！
「ん、そうですね。もう遅い時間ですし」
今頃、気づいたんかい！？
心なしか嬉しそうな彼に「ちょろい、ちょろい」と安心したのも束の間！
「明日も会ってくれませんか？」
なぬっっ！？？
……本当は家の用事もあったけど、ついつい甘く考えてしまったあたし。
無事に家へ帰れただけでも、ま、いっか。
一応、用心のために最後まで送ってもらわず、家から５００m手前で降りてね。
ふ〜〜、ちかれた。
帰宅して一番にやったこと。
歯磨きを２回！
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。
モ○ダミンのストロングミントをストレートで！
口クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ。
カ―――――――っ！
きつっ！！
超ハードな刺激に、口内がジンジンと痛い。
仕上げに、湯船に塩をひとつまみ入れて自分を浄化。
「何もそこまでやらんでも……」という声が聞こえてきそうだが、いいのっ！
「嫌なもんは嫌ぁあああああああああ！！」と徹底的な自分なんでね。
頭から爪先まで気分もすっきり、雑念・邪念を払う意味で柏手をして就寝。
……夢を見た。
曇り空の下、赤と黄色のカラフルな鉄製の建物中を歩いて行った先にジェットコースター。
それに乗り、目を閉じて動き始めた恐怖に身構えると突然、体が軽くなった。
不思議に思って瞼を開けたら、何故か観覧車内にいるあたし。
誰かの気配を横に感じながら、小さくなってゆく地上風景を窓からごわごわと眺めていた。