光の風 〈貴未篇〉後編-6
「その鳥が光の精霊ですか?」
「ああ、桂だ。」
千羅に答えた後、カルサは貴未の方をむいた。貴未の目線は落ちている。
「貴未、貴重な戦力だ。ありがとう。」
カルサの言葉に貴未は少し頭を縦に動かしただけだった。気持ちの整理ができていないのか、受け入れられないのか。どちらにしても貴未にはカルサと話をする準備ができていなかった。
「貴未、帰ってきて早々だが頼みがある。」
カルサの声が聞こえた瞬間、貴未の目の前には光に包まれたマチェリラの姿があった。貴未は思わず顔を上げる。
寂しげな表情、彼女をそうさせた意味が貴未には分からなかった。
『貴未、私を運んで欲しい場所があるの。』
「マチェリラ?」
その場に居た者は皆、それぞれが複雑な思いを抱えていた。マチェリラは何かを伝えようとしている、そう感じた貴未は手を差し出した。
「分かった、行こう。」
マチェリラはほほ笑み、貴未の手に自分の手を重ねた。
『軌跡は私に委ねて。』
マチェリラのその言葉を最後に二人は部屋から消えた。残されたのはカルサと千羅だけだった。
「千羅、ありがとう。」
「いいえ。」
カルサは手で顔を覆い、壁に背中を預けた。感情が巡る、来るべき時が来たのだと自分に言い聞かせていた。
顔を合わせにくいのは自分の方、以前のように接することができないのも自分の方だった。
もしまっすぐに貴未が自分を見てきたら、きっと目を逸らして逃げてしまうだろう。
「行かないと…早く総本山に行かないと。」
小さくなるカルサの姿を千羅は見ていた。目の前に立ち、彼の両肩をつかむ。
「逃げるな。」
千羅の声にカルサは悲痛の表情を浮かべる。
なぜ、こんな事になるのか。なぜ自分なのだ、という複雑な感情が体の中で膨れ上がっている。処理しきれない感情から千羅の腕をつかみ、頭を肩に預けた。
「くそっ!」
どうする事もしてやれない。もどかしさが千羅を苦しめた。
自分にできることはやっているつもりだった。しかし、この問題はそうはいかない。これは貴未とカルサが二人で乗り越えなくてはいけないもの。
力が欲しい。
いつも願うのはそれだけだった。