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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈貴未篇〉後編-7

「ここでいいのか?」

人里離れた場所にある、小さな洞窟、奥へ奥へと進んだ先に誰も踏み入れたことのない湖があった。

透明度の高い清らかな水、わずかな隙間からさす光は暖かかった。

貴未の言葉に頷き、マチェリラは湖の畔へと足を運ぶ。目下にあったのは白く大きな竜の体。

『貴未、見て。』

 貴未を近くに呼び寄せてマチェリラは湖の中を指差した。

「うわ…竜だ。」

白く大きな竜、しばらく眺めた後貴未は表情を変えた。

「オレさ、小さい頃に竜を見たことあるんだ。」

貴未の言葉にマチェリラはすぐに反応した。貴未は竜を見たまま、言葉を続ける。

「永と二人で草原のような広い場所で遊んでた時かな。傷だらけの竜を見つけたんだ。」

その時に二人で竜に時間を与えて、細胞の再生力を早めた。貴未はそう続けた。

まだ自分達の力がうまく使えない頃、何かの時間を操る能力だけが精一杯だったと言う。

マチェリラは目頭が熱くなり、思わず顔をそらした。泣かないように顔を上げる。

「あの竜、泣いてたんだ。」

マチェリラの中で鮮明に思い出せるあの時、貴未は小さな手で涙を拭ってくれた。

『私はオフカルスのあの出来事の後、未来へと飛ばされた。』

口を開いたマチェリラに貴未は目を向けた。彼女はさっきの貴未と同じように、目を湖の中の竜に向けたまま話を続ける。

『身も心もぼろぼろで、生きる気力なんてなかった。草村に横たわって、もう涙だけが生きる証だったの。』

そう言うとマチェリラは体を宙に浮かせ、湖の真上へと向かった。

「マチェリラ!?」

何をするのか分からない貴未は、反射的に彼女の名を呼んでいた。マチェリラは顔を振り向かせ微笑むと、竜に向かって下りていった。

貴未の叫ぶ声が洞窟内に響く、マチェリラが竜に触れた瞬間、竜は眩しい光を勢い良く放った。貴未は反射的に顔をそらし腕で目を隠す。

光は弱まり、水が跳ねる音が聞こえてきた。腕を避け、湖の方に視線を戻す。

貴未は息を飲んだ。

そこには湖から体を出し、貴未を見ている竜がいた。白く大きな竜、長く伸びた体は尾の先まで光を帯びている。

白い鱗に黄金のたてがみ、瞳は透き通るような碧だった。

「碧い瞳…。」

竜に圧倒されながらも、まっすぐ自分を見つめる瞳に貴未は自由を奪われた。そして思い出す。

いま目の前にいるのは、あの時の竜ではないのかと。


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