光の風 〈貴未篇〉後編-13
「真意はなんだ?」
カルサの言葉に貴未は手を下ろした。互いに探りあうように目を逸らさない。
「マチェリラに言われた。信じるなら裏切られる覚悟もしろって。」
カルサは黙ったまま、貴未の次の言葉を待った。
「玲蘭華もオレの力を狙っている。お前の上がオレを狙っているんだ。信じる事はできない。」
貴未の声はいやに響いた。カルサは目を閉じてゆっくりと頷く。
「それでいい。人を信じてもその倍の重さで人は簡単に裏切る。」
カルサの言葉を聞いて貴未は彼の過去を思い出していた。自分の欲を満たすためだけに近付き、平気な顔で裏切る人は彼の周りには沢山いた。
若くして王位に就いたカルサは、そういう輩にとって格好の標的だった。
「自分の気持ちを安売りする必要はない。オレはそれでいいと思う。」
なぜだか貴未は切ない気持ちでいっぱいだった。カルサの目はそれ以上に切なさを帯びていた。
「永はきっとヴィアルアイの下にいるだろう。オレもいずれはそこに行かなければいけない。お前の判断は正しいよ。」
カルサは一度は貴未が手を差し出した場所に手を差し出した。貴未は再び手を出そうとするが、疑問が浮かび手を戻した。
「聞きたい事がある。」
カルサはそれに目だけで応える。
「永が玲蘭華の方にいないと何で分かる?」
手を下ろした。
カルサは目をふせ、表情が曇っていく。
「ジンロ、という人物がいたんだ。玲蘭華の傍、御剣の総本山オフカルスに。」
彼もまた、マチェリラと同じ様に太古の国の神官だった、と言葉を続けた。ジンロはカルサとリュナが封印された時にも二人を助けにきた、カルサが信用している人物の一人だと貴未に伝える。
「あいつが傍にいて、オレに何も言わないのなら。そこに永はいない。確かだ。」
キッパリとした物言いだった。その姿勢から本物の絆を感じさせる。
「その人は今も玲蘭華の傍にいて、カルサに情報をくれるのか?」
「いや。」
その反応は重く、歯切れの悪いものだった。いくつものマイナスが貴未の頭の中に浮かぶ。
「封印されたリュナを地球に隠した以来、行方不明だ。」
行方不明、貴未は小さく口にした。本当は内心たまらなく心配なのだろう、それでも何でもないように気丈にふるまっていた。
そうやって自分を保っているのだ。カルサのその気持ちを汲んでやらないといけない。貴未は心に決めた。
「じゃあ、永はやっぱりヴィアルアイの所にいるってことだな。」
そう言うと貴未は再び手を差し出した。