光の風 〈貴未篇〉後編-11
「貴未がオレなら、どうした?」
カルサは貴未を見ずにもう一度、同じ言葉を言った。貴未は少しカルサの言葉の意味を探ったが、自分の素直な意見を口にした。
「死んでた。」
貴未の声で、まるで二人の時間だけが止まったようだった。
「オレがカルサだったら死んでたよ。きっと。」
その言葉は爽やかに聞こえて、突き刺さるように感じた。貴未が一歩、屋根の淵側に足を進めた瞬間、カルサは貴未の名を呼び立ち上がろうとした。
しかしその声は、貴未の言葉に遮られた。
「きっと体は生かされたまま、心だけ死んでいったと思う。」
そう言うと貴未は振り返った。中途半端に体を起こしたままのカルサがそこにいる。
「オレはカルサじゃないから全部は分からないけど。」
貴未の脳裏に、マチェリラや千羅から聞かされた出来事がよぎる。それはあまりにも残酷で悲劇だった。
「責任とか、重すぎて聞いただけでも押し潰されそうだった。」
切ない声がどこまでも素直にカルサの中に入ってくる。
少し俯き加減だったカルサは、止まってしまった貴未の声に違和感を覚え、思わず顔を上げた。そこにはまっすぐカルサを見つめる貴未がいた。
貴未はカルサと向き合うのを待っていた。
「お前、今までの自分に自信がないのか?」
一番聞かれたくない事だった。
「自信なんてある訳がない。」
カルサの目は貴未を見つめたまま、口は動いた。
「あの時、オレが死んでいたら助かったんじゃないか。そんな人が沢山いる。」
後悔しているのだろう、苦痛の表情を浮かべた。固く握られた拳は、溢れだしそうになる感情を必死で押さえている。
「救える命を亡くした事も、奪われるはずない命を落とした事も、全てオレの!」
押さえきれなかった思いが溢れだした。
カルサは言葉につまり拳で自分の足を叩く。重く鈍い音、彼の拳からは血が滲み出ていた。
「なんで、カルサなんだろうな。」
それは同情の声ではなかった。
「こんなに人がいるのに、なんでカルサだけ負荷がありすぎんのかな。」
簡単な疑問、貴未の言葉に対してやはりカルサは簡単な答えを持っていた。
「それはオレが…。」
「太古の国の皇子だから?そんなの理由じゃない。」
カルサの答えを貴未は否定した。それでいつも諦めていた、それを前提に全てを義務としていた。
それが答えじゃないと、貴未は言った。