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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第18章-6

「さくら」

「……ん…?」

私は、窓の外を見たまま答えた。外は雨で…さくらの季節に降る雨なのだから「花雨」と呼ぶのだろう、花を長く咲かせるというその雨だけれど、桜は雨に打たれ、その滴と一緒に地面に落ちてしまっていた。

「しばらく出かけなければならない。」

彼の声には、なんとなく聞き覚えの無い響きがあったような気がした。けれど、私は窓の外から目を離せずに、

「そう…気をつけて…。」

とだけ、言った。

私は、自分の暗闇の世界の深い所に居て、そこでは学校も、時間も、自分の健康状態も…そして飃のことさえ、考えることは出来なかった。そのくせ、心の中が空っぽなわけではなく、楽しいとか、うれしいとかいう感情の代わりに、ただ…哀しみが、長く憂鬱な淫雨のように降り続いていた。そして、時折憎しみが遠雷のように遠くで鳴る…嫌な世界だ。嫌な…



飃は、最後に後ろから、きつく私を抱きしめた。きつく。



それでも私は、抱きしめ返すことが出来なかった。

彼はそうして、何分の間じっとしていただろう。ついに私の頭に口付けをして、彼は去っていった。



そう



去っていった。





次の日家に来たのは、飃の村で長の代行をしているはずのイナサさんだった。彼女は小さなかばんに荷物をつめて、しばらくさくら殿の所に厄介になると言った。

「厄介なんてとんでもない!いつでも歓迎しますよ!」と、かつての私ならば言っただろう。でも、私の口から出たのは、もっと短い

「どうぞ…」

だけだった。



私は、イナサさんが私に作ってくれたおじやも、満足に食べることが出来なかった。会話もできていなかったように思う。時折耳に入る外の喧騒に、必死で耳をふさぐ私の姿を、彼女はじっと見つめていた。

それから、それから、たぶん一日か二日の後だったと思う、飃がどこに居るのか、私はイナサさんに聞いた。あれから、ずっと帰ってこない。

「気になりますか。」

イナサさんは、答えずに聞き返した。

なんだかんだ言って、私には飃が居ないと駄目なんだと、ぼんやり思っていた。日陰に咲く花でさえ、知らず知らずのうちに太陽の恩恵を受けているように、私には、近くに感じられるどこかに飃が居ないと、駄目なんだと。

私はうなずいた。でも、私の問いに、彼女は答えようとはしなかった。


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