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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第18章-4

「ねぇ。」

彼女は部屋の中にいた男に声をかける。名前など知らない、それでも長いこと彼女のそばに居たせいで、名前がないことが自然なのだと思える。返事が返ってこないので、彼女は仕方なく首をめぐらして後ろを見た。

「ねぇったら。これ、解いて。良いでしょ?」

ゆっくりと、彼女のほうを振り返った男は、窓の外を見ていたようだ。こんな真っ暗なところに、見るものなどありはしないのに。

「ああ。」

それが、彼らの間で毎日交わされてきたそっけない会話だった。相手の要求にも、問いにも、イエスかノーで返す。返事に給するような質問はほとんどしない。

男はかがんで、足に何重にも巻いてある絶縁テープを引きちぎった。茜の目には見えないけれど、彼の頭の上には耳がついているらしい。彼は人間ではない。狗族と言う人種、いや、人種といっていいものか…とにかく、そういうものだと聞いた。かつては神として人間たちに崇められていたけれど、その信仰も今ではほとんど廃れて、同時に彼らも滅びかけている。もうこの国に、いくらも居ない。

「ねぇ、何で仲間を裏切ったの?あんたはその…狗族がわについて当然なんじゃないの?」

珍しく、問いらしい問いをする。視界の下でかすかに揺れる金の髪をたたえた頭が動きを止める。返事は無い。彼は茜が本当に幼い頃から、身の回りの世話をするために彼女の家にいた。物心ついてからずっとだから、もう10年以上の付き合いになるのだ。だから、彼が自分を無視することなんてもう慣れっこになっていた。両方の足が自由になって、ひょいひょいと足首を回してみる。

「どーも。手もお願い。」

返事をするでもなく、男は後ろに回る。めがねの奥から覗く切れ長の目は表情が読めない。狗族にも種類があって、彼は狐狗族に属すると聞いたが、彼の目を見るたびに納得したものだ。

「どんな者たちだろう、と。」

「―え?」

唐突に後ろで上がった声が、何の感情も持たぬまま答えた。

「神族や、妖怪を食い荒らす化け物が郎党を組んだと…そして、なす術もなく多くの仲間が犠牲になったと聞いた。どんなものがそのようなことをするのか、見てみたかった。」

「好奇心?」

「ああ。」

淡々と、会話が進んでいく。

「答えは、見つかった?」

「今は別のことに、興味がある。」

感情のないロボットのようなこいつの動力は好奇心なんだ。こいつに白衣を着せれば学者のように見えるようになるかもしれない。茜がそう思った時、手の戒めも消えた。



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