ジャンプ!-22
ーエピローグー
「なあ、勘弁してくれないか!」
「ダ〜メ。ちゃんとそこで見てなさい」
直海は美加と一緒にに買物に来ていた。普通でも彼女との買物を苦手としている。それは買物の仕方がまったく違うためだ。
直海は買物をする際、まず必要なモノをリストアップし、それ以外のモノは見向きもしないタイプ。
対して美加は総じて〈ながら買い〉を得意にしている。必要なモノは分かっているのに、たどり着くまでが長い。
ようやく目当てのモノが見つかっても、買うまで思案するタイプ。
だから買物の時、直海は別行動を取り、必要時に携帯で連絡し合う方法を取っていた。
しかし、今日は違う。夏川との一件で、ケンカした美加への謝罪の意味を込めてプレゼントする事となったからだ。
おまけに、美加は直海に〈試着するからどれが似合うか見てくれ〉とせがむ。
仕方なく了解したが、美加が試着室にいる間、婦人下着売場に取り残された直海にとって他の客からの視線は、まさに〈針のムシロ〉に居る思いだった。
「ヘェ〜ッ、じゃあ会社の女の子と終わって彼女とも仲直りしたんですか?」
浩子が直海の説明に笑いながら聞き返す。
「貞本さん。ホラッ!空けて、空けて」
順一が、直海にグラスを空けるよう促す。
「ハイ、いただきます!」
すべてが良い方向に終わってホッとしているのか、直海のテンションも軽い。
「夏川……会社のコも聞いたところでは、紹介した奴と上手くいってるらしいし。美加には……痛い出費をさせられましたが、最終的には理解してくれましたし……」
浩子はイタズラっぽい目で直海を眺めながら、
「普段、冷静な貞本さんも、彼女に掛ったら形無しですね」
直海は苦笑いを浮かべながら、
「まあ……仕方ないですね。オレが悪いんだから」
「美奈、貞本さんに注いであげて」
次女の美奈は父親の順一から言われた事に〈ハ〜イ〉と言って応え、直海の空いたグラスにビールを注いだ。
「ありがとな!美奈ちゃん」
そう言ってグラスを傾ける直海。
「ねぇ、貞本さん!これ描ける?」
長女の優香が、直海のもとにマンガ本を持って来た。それは少女マンガのヒロインだった。
(描けるかな……)
直海は優香に、
「紙とエンピツ有るかな」
優香から紙とエンピツを受け取ると、しばらくの間、対象を眺めてからエンピツを走らせた。
出来上がった作品は直海本人にとっても久しぶりに〈良いタッチ〉で描けたモノだった。
「ハイ、優香ちゃん」
出来上がった絵を優香に渡すと、彼女は妹の美奈と一緒に眺めている。
そして、2人でひそひそと相談をして、リビングから出ていった。
直海はその事を忘れて、順一との酒宴を楽しんでいる。
すると、再び2人が部屋に戻って来た。優香は順一の後の壁、直海の座る位置から見やすい壁に、先ほど描いた絵を押しピンで留めると、
「これ、ずっと飾るから」
それを聞いた直海は、次の瞬間、両手を合わせて優香に言った。
「それだけは勘弁してくれ!他に描くから」
そう言うと皆が笑った。直海の笑い声も楽し気だった。