ジャンプ!-15
「〈あんな姿〉を見て良いと思ったの?」
「いえ、あの時は変わった人と思ったぐらいで……それから仕事で同じ部署になって……」
「エッ、でもこの前は人を寄せ付けないオーラが出てるって……」
「あの時は、流れで言いましたけど……野球と同じです。必死に仕事に打ち込む貞本さんは憧れなんです」
直海は照れを隠すようにワインに手を伸ばして、
「そいつはありがとう。でも、本当は違うよ。人に負けまいと肩肘張ってたんだ。仕事以外、人と比較出来うるモノを持ってないからね。
君が思っているほど〈貞本直海〉という男は強く無いんだよ」
直海は力無く小さく笑って見せる。
すると、夏川は悲し気な表情で見つめながら言った。
「…そんな事言わないで下さい。辞めても憧れでいて下さい。貞本さん」
その愁いを帯た目に、直海は思わず逸らしたくなるほどだった。
パスタが運ばれてくる。直海の好きなペペロンチーノだ。だが、ちょっと違うようだ。
「これはさ、日本で言う〈素うどん〉のようなヤツさ。それこそニンニクと鷹の爪、それにオレガノでオイルに香り付けをしてパスタに絡めてあるだけなんだ。
ここらじゃ出す店はないよ」
直海はマナーなどそっちのけで、パスタを音を立ててかぶりつく。夏川も、一口食べると〈美味しい〉と言って、無言で食べだした。
人間、美味しいモノを食べる時は食事に集中するためか、自然と無言になるモノだ。
腹もアルコールも満たされた。そろそろ頃合いか。直海は、またも夏川にダイレクトに問うた。
「夏川さん。山内と付き合ってみる気はないか?」
突然の問いかけに、夏川は、思わずパスタを吹き出しそうになる。
「…な、何を言い出すんですか!貞本さん」
咳込む夏川に、直海は真剣に答える。
「驚くのは最もだけど、オレはいたって真面目だよ。アイツはオレの後輩の中で一番、気持ちの優しいヤツだ。それに、君に好意を持ってる」
直海の言葉に、夏川は頬を染めて頭を振りながら、
「そんなのウソです。だって総務に来た時なんか、素っ気ないんですよ」
直海はニッコリ微笑むと、
「アイツはシャイだからね。〈遠くから見守る〉タイプなんだよ」
「…でも…そんな突然言われても」
「だからこそさ。とにかく会ってくれ。気に入らなければ断れば良いんだし」
「………」
夏川はまだ思案している。無理もない。憧れの相手から初めてデートが実現したその日に、別の相手を紹介されたのだから。
しかし、夏川は山内の事が嫌いではなかった。むしろ、好感を持っていた。
「…分かりました……1度だけなら……」
(ヤッタ!!)
思わず口に出したくなる直海だった。
「じゃあ日時は連絡するよ。最初は林さんも入れて4人で行こう」
直海は考えていた事が杞憂に終わりホッとしていた。