ジャンプ!-11
「へぇ〜、ねぇ私は?」
「林さんは知ってるから無理だよ。33だろ」
「失礼ね!今年で32よ。手でわかるの?」
「シワの具合やツヤから分かるんだよ」
それから夏川を真剣な目で見るめると、
「10年前と言うと、君が入社した年か……君、学生の頃付き合った男性は?」
「……それも答えなきゃダメですか?」
夏川は意味が分からず、やや迷惑そうな顔をする。
「ああ、頼むよ。オレも答えるから」
「…高2の頃に少し…後は20歳の頃に1年位……」
「初めてセックスしたのはいつ?」
「貞本さん!アナタ……」
林が声を荒らげて、何か言おうとしたが直海が制して、
「夏川さん。オレは高2の時に初めてセックスしたよ。相手は中2の娘だ。
その娘とは1年半位だったかな。その後、今まで5人の女性と付き合った……」
直海はそう前置きすると、ひと息吐いてから続ける。
「皆、真剣だった。今もね。オレは相手の考えを尊重する。相手がやりたい事があって結果、別れなければならないとすればオレは喜んで別れるよ」
直海は自分に言い聞かせるように、夏川に言った。
「夏川さん。今度デートしよう。それで良いかな?」
夏川はやや目を赤らめて頷いた。
「じゃあ…そろそろ出ようか?」
直海にとって、久しぶりの中洲。
夜風が心地よく感じる。2人を地下鉄乗り場まで送って行くと、彼はひとり、踵を返して那珂川沿いのビルへと向かった。
ビルの5階で降りると、右奥にある〈Bar NaNaMi〉と金文字で書かれた店のドアーを開ける。
連休前の週末のためか結構な客の入りだ。
直海がいつもの〈とまり木〉に腰掛けると、すぐにバーテンダーが寄って来た。
「ターキーのダブルとチェイサーを…」
彼のいつものだ。
直海の前にグラスが二人並べられる。それに小皿に入ったバターピーナッツ。これがこの店のウリだ。何の変てつもないのに。
直海がグラスを口元に持っていこうとした時、入口のドアーが開いた。思わず目をやると女性が入ってくる。
直海はバーテンダーに言った。
「すまないがマティーニを追加してくれ」
女性は直海のとなりに座った。林だった。
「ダンナは大丈夫なの?」
「今日は飲みたい気分なの……」
ダンナと何かあったのだろう。林もダンナも地場大手の社員。自宅は大濠の高級マンションと、まるで絵に書いたような夫婦だが、中身は違うらしい。
人というのはうわべだけでは判断出来ない。
マティーニが林の前に置かれる。彼女がグラスを持つと直海も合わせるようにグラスを近づける。