『彼方から……』-2
…………白…………
見渡す限り一面の白。
地面(らしきもの)も
空(らしきもの)も
壁(らしきもの)は無いみたいだけど、目に映るのは白……それだけだった。
「どこなんだよここは?見たコトねえぞ?こんな景色……」
(でしょうねぇ……)
突然頭の中に声が響いた。
「だ、誰だ!?」
反射的に俺は聞き返す。
すると、躊躇うような気配が感じられた後に
(誰と申されましても……そもそも、私は人間ではありませんので……)
そう答えが返ってきた。
人間じゃない?
からかってんのか?コイツは……
(いいえ、からかってなどおりません。)
至極冷静といった感じで声は再び答えた。
いや、待てよ?俺、今喋ったか?
(いいえ、喋っておりません。ここでは言葉は必要ありません。頭で考えて頂ければ結構ですので……)
言葉は必要無い?
ここでは?
「だから、ここはどこなんだよ!!」
(ですから言葉は……)
「うるせぇ!!そんな話し方したコトねぇんだ!いちいち文句つけるな!!」
なぜか俺は苛立っていた。言いようの無い不安と焦燥感に……
そして、コイツの妙に丁寧な話し方がなんだか馬鹿にされているみたいだったから……
(申し訳ありません。決して馬鹿にした訳ではなかったのですが……気に障ってしまったのでしたら謝ります。)
「待った!!最初に言っておきたい。頼むから俺が口にした事以外に答えるのはやめてくれ。例え聞こえていたとしても……」
(わかりました。思慮が足りませんでしたね、お詫び致します。)
その言葉に俺は大きな安堵の溜息を付いた。さて、例え考えを読まれているとしてもこれで勝手に答えが返ってくる心配は無くなった訳だ。俺も冷静にならなきゃな……
まず、聞きたいのは……
「質問だ。ここはどこだ?」
(名称は人によって様々ですが、俗に峽(はざま)と呼ばれている所です。)
俺の不安は現実味を帯びていく……
「続いて質問だ。何と何の峽なんだ?」
今まで即答に近い形で答えていた声が間を開けた。
明確に言葉が返ってきた訳ではなかったがさっきよりも強く躊躇いの感情が伝わってきている。その後、声は言った。
(答えてもよろしいのですか?)
「俺の考えが読めるなら、もうわかっているんだろ?敢えて言うなら確認だ。あんたの口から答えが聞きたい。」
しばしの沈黙があった。
それは一瞬だったかもしれないし、永劫だったかもしれない……
そして、俺の頭の中に答えが返ってきた。
(この世とあの世の峽です……)
認めたくなかった
認めざるを得なかった
有り得ない光景……見渡す限りの白い世界。空と地面の境すらわからない。そんな景色、地球上のどこを探したって見つかる筈なんかない。
突如、蘇る記憶。唸りをあげて突っ込んでくるトラック……
このままじゃ美宇が危ない!!
そう思った俺は更にスピードを上げて走り、前にいた美宇を突き飛ばした。眼前に迫るトラック……
そして……