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『彼方から……』
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『彼方から……』-14

室内を探し回ってみても着火に使えそうなモノは何も無い。

「火器厳禁は使わない山小屋の基本か……そうか!車に戻れば何かあるかもしれないな。美宇、すぐに戻るから待っててくれ。」

俺はログハウスを飛び出して車へと向かった。

駐車場に着いて車に駆け寄った瞬間、急激な目眩と脱力感に俺はよろける。

「どうしたんだ俺は……。まさか!?」

《下界の者に正体がバレたら、タイムリミットを待たずしてあなたは地獄行きになる……》

母さんは俺の正体に気付いてしまった。
だからなのか?

ダメだ!!

まだ俺は逝く訳にはいかないんだ。タイムリミットまでいられなくたっていい。でもせめて美宇の無事が確認出来るまで……あいつが自殺を留まってくれるまで俺は逝けないんだ!!

気力を振り絞って俺はドアを開けると、車のトランクを開けた。

アウトドアが好きな俺は、つねに最小限の装備を車に積んでいる。それがこんな形で役に立つとは思っても見なかった。

「やったぜ!そのまんま残ってやがった。」

着火剤に毛布、それと固形燃料に非常食……
ナップサックに詰め込んで毛布を小脇に抱えると、俺はトランクを閉めた。

「ミャー、ミャー……」

「おっと、お前のコトを忘れてた。ポチ、美宇は無事だったぞ。お前も来い。」

ポチを抱えようと手を伸ばした時、座席の上に携帯がある事に俺は気付く。

「ポチ、少しだけ待っててくれ。」

携帯を手に取ると少し躊躇ってから俺は番号を押した。数回の呼出し音の後に電話は繋がる。

「只野です、美宇を見つけました……ええ、無事です。だから、騒ぎを大きくしない様にしてもらえますか?」

俺は母さんに美宇の無事と今いる場所を伝えた。

「美宇にわかってもらう為には、すべて話さなきゃならない……だから母さんと話すのは、きっとこれが最期だと思うんだ。母さん、頼みがある……」


俺は電話を終えてポチを連れてログハウスに戻った。着火剤で手早く火を起こすと室内はみるみるうちに暖かくなっていく。濡れた服を脱がせて毛布を掛けると美宇の頬は次第に赤みがさしていった。

「もう大丈夫だな……」

小さな溜息を付いて俺が乱れた髪をそっと掻き上げると美宇は軽くむずがった。

「美宇……ごめんな。お前をこんなに苦しめちまって。本当にごめんな……」

俺の瞳からとめどなく涙が溢れた。そして美宇が目を覚ましたらすべてを告げよう……

俺はそう決心した。美宇が目を覚ますまでのこの時間が最期に二人でいられる時……

このまま時間が止まって欲しいと心の底から思う。
例え語り合う事など出来ないとしても、この寝顔を永遠に見つめていたいと真剣に願った。

俺に残された時間は後……いや、やめよう。次に美宇が目を覚ました時が……
すべてを告げた時が、俺の時間の終わりなんだから……


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