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ewig〜願い〜
【悲恋 恋愛小説】

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ewig〜願い〜-1

―――ずっとずっと昔の日本。
天皇は神と崇められ、実権は藤原氏にあり、貴族たちは自由気ままに生活を送っていた時代・・・。
一人の貴族と召使の話・・・。
 
 
 
世間は藤原家が世を掌握し、農民らが苦しい生活をしているらしい。
らしいというのは俺にはまったく関係ないことだからだ。
俺は一宮 嵩雅(いちのみや たかまさ)。
一応、天皇家の血を引く一族のものだ。
まぁ、一応公務はちゃんと執行しているけどな。
世間は腐っている。と俺は思う。
こんな腐れたところにいてもなんの希望もない。
「嵩雅さま、お香をお持ちいたしました。」
ふすまの向こうで声がする。
俺の専属の女中。絢芽(あやめ)だ。
「入れ。」
香なんて嗅いでもなんの特にもならない。
むしろ、臭い。けど、一人でこうしてぼーっとしているのも暇。
暇つぶしに何かをするだけ。貴族なんてこんなもんだ。
まぁ、夜な夜な女のところ行って詩を詠み、口説く奴らもいるみたいだけどな。
俺はそれすら面倒だ。というより、女が嫌いだ。
俺の身の回りの世話をする女中は一人だけと決まっている。
気に入らないところがあったら即解雇。
女中たちの中じゃ、俺についたら命があっても足りないとか、鬼畜だの魔王だの言っているがな。
そんな中でもこの絢芽は珍しく2ヶ月も俺についている。
今までは最長1ヶ月半だった。こいつはなぜか気に入らないところがない。
俺に干渉すらしない。居心地のよさも感じる。
まぁ、そのうちぼろが出るだろう・・・。
「今日の香はなんだ」
「今日は佐曽羅(さそら)でございます。」
このやりとりも何回やっただろう。
すでに習慣化している気がする。
絢芽が香を焚いている横で俺は外を見る。
庭には、ちょっとした川が流れ、松や銀杏、桜、梅、桃などの木が植えられてある。
四季をすぐに感じることはできる。だが・・・、一歩外に出ればこの景色が夢ではないのかと思うほどの悲惨な地獄絵図だ。
俺はいつの間にか庭から視線を外し、目を伏せていた。
「嵩雅さま、いかがなさいました?」
絢芽が声をかける。今までは、不必要な会話はしたことがなかった。
俺は一瞬、絢芽を見た。が、すぐに目を逸らした。
「いや、なんでもない」
こいつは元々『外』の人間だ。『外』には親御さんもいる。
その親御さんのことは心配じゃないだろうか?
「・・・赤い手の ゆらゆら舞う葉 掴みして 透かしては見る 朧月かな・・・」
絢芽が唄を詠んだ。
「ここにいると、『外』の世界が幻のように思えてきます。もみじの葉が赤く色づいて庭を染めています。けれど、外にはそんな真っ赤な世界はなくて、あるのは人間のアカだけです。まるで、よく絵に描かれる地獄絵図を見ているような気分に陥ります・・・。」
俺もそんな気持ちだった。どんなにもみじが赤くきれいに色づこうとも、外に出れば同じ赤でも、人間の血やらなんやらの赤を見ることしかできないのだ。ここは本当に同じ土地に建っているのかさえわからなくなる。
「お前の家族は『外』であろう?心配ではないのか?」
俺は思わず聞いてしまった。今まで女中に干渉する真似はしたことがなかったのに。なぜか、絢芽のことは気になってしまった。
「父は2年前に亡くなりました。そして、母も・・・。兄弟たちはそれぞればらばらに奉公に出ていますゆえ・・・。心配ではないです・・・。」
そう答えた彼女の表情は哀愁に満ちていて、嘘だとすぐわかった。彼女はいろいろなことを我慢してきたのだろう。彼女は俺に仕える前から、ここで下働きしていたらしい。それが、ちょうど2年半前のことだから、彼女は両親の死に目に立ち会えなかったのだ。そう、彼女のことをわかると、いたたまれない気持ちになり、慈しむような愛しいような気持ちに包まれた。
それが俺の彼女に対する恋の始まりだったんだ。


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