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ewig〜願い〜
【悲恋 恋愛小説】

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ewig〜願い〜-2

「よぉ、嵩雅。久しぶりだな。」
ある日の昼過ぎに、蹴鞠(けまり)やら、歌詠み仲間というより、俺の親友(?)である鈴原初瀬道(すずのはらはせみち)が尋ねてきた。
「初瀬道・・・。今日はどうした?蹴鞠も歌詠みも予定にはないはずだが?」
俺は今日の分の公務を行いつつ、初瀬道にそう返事をする。農民から年貢を減らしてくれとの懇願書が毎日いくつもくるのだ。年貢を減らしてしまったら、女中に与える給与が少なくなる上に解雇しなければならぬ者も出てくるはずだ。けれど、農民たちの苦悩する姿も見たくはない・・・。どうしたらいいものか・・・。
「相変わらず、嵩雅殿は仕事熱心ですなぁ・・・。女にちょっとはしったらどうだ?せっかくの一夫多妻。お前ぐらいの美貌と歌のセンスなら女ならすぐ股開くぜ?」
こいつは度々下品な物言いをする。
このころは一夫多妻制で、男が女の下に通い、歌を読みプロポーズをしていた。どこかの貴族に仕える女がそのような長編小説を書いているらしい。プレイボーイのイケメンの話だそうだ。悠久に残る大作品になるだろうと云われている。けど、俺はそんなことをする気はない。やる気もおきないのだ。
「悪いがそんな気はない。今の状態で満足だからな。」
「変わっているなぁ・・・。まさか女中に手を出しているとか?お前の女中かわいいもんなぁ・・・。」
初瀬道がふとそんなことを言った。その言葉に卑しさが込められているのがわかった。こいつは女に手を出す早さでは都一だ。絢芽が危ない・・・。俺はそう直感した。
「まだ手を出していないが、いずれは出すつもりだ。俺より先に手を出したら、ここから追い出すぞ。」
俺は一応、天皇家をも動かせる権力はある。ただそれを藤原家みたいに誇示しないだけであって。それは初瀬道も重々承知している。だから、こう言っておけば、
「わかっているって!まさか俺だってお前の女中には手を出しはしねぇよ!今までだってそうだったろ??」
ほら来た。こいつはすぐ自分の身を守りに走る。
「あいつらが辞める直前に手を出していたけどな。おかげさまであいつらの再就職先、悩まずに済んだよ。」
「うっ・・・それを言うなって・・・」
こいつの家で働いている女中のほとんどは前に俺の元で働いていたやつらだ。俺がこんな性格だから、こいつにしてみれば手を出しやすいんだろう。おかげで、俺の女中はこいつの手中に納まっている。俺は、俺ではない誰かに従う女中など要らない。だから、こいつの元へみんな送ってやった。そして、また何人か送らなければならない。果たして、俺の元に純粋に従ってついて来てくれるような女はいるのだろうか。
きっと、絢芽もついて来てはくれないのだろうな。
結局、俺は一人なのだ。それは、わかりきったことなのに。
なぜ、こんなにも悲しい気分になるのだろうな。
なぁ、絢芽――――
 
 
 
初瀬道が帰った後、俺は一人物思いにふけていた。
俺がこの一宮家の長男として誕生したその日から、俺は母親の手から離れて暮らしていた。
父親はこの世の風潮の通り、毎日他の女の元に出かけてはその女の元に一夜を過ごすばかり。
俺なんてまったく興味もなかったのだ。
母親には昼の少しの間だけ面会が許されていたが、母親も母親で他の男に熱中で俺には構ってくれなかった。
女中もすぐ変わって、俺について世話をしてくれる人なんていなかった。
俺は物心ついたときから一人だってことを思い知らされた。
日々をそれとなくこなし、それとなく過ごしてきた俺は、父親が隠居したのを期にこの一宮家を継ぎ、今に至っている。
ほんとはこの家のことなんてどうでもいい。
俺になんの愛情も注いでくれなかったこの家なんて、居心地が悪いだけ。
この檻から出ようと思えば出られる。
だが、血という名の鎖が邪魔をする。
結局、愛もくれなかった両親のことを捨てられないのだ。
子どもは、両親を恨みきれない。どこかで愛してしまうのだ。どんなにひどい親でも。
鳥になれたら、どんなにいいか・・・。


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