結界対者・終章-6
「赤い目、気持ち悪い、目がおかしい、何か怖い…… あの娘は、そんな周りの声に、ずっと耐えながら生きてきたの。でも、耐え切れなくなってしまって」
「それで、間宮はどうしたんです!」
「私が止めた」
少しだけ、サオリさんの声が詰まった気がした。
俺は、驚きを隠せず、ただ黙り込む事しか出来ない。
「あの娘ね、私は生きていない方がいい、こんな気味の悪い、赤い瞳の人間…… なんて、そんな事を言ってね。 私、堪らなくなって思わず言ってしまったの」
「何て、ですか?」
「あなたの赤い瞳には意味がある、本当のあなたは大いなる存在なのよ、って。でも、これは絶対に言ってはならなかった事」
「……?」
「イクト君、あなたが対者として目覚めた時の事、覚えてる?」
「確か、間宮が、力の存在を自覚するとかなんとか……」
「そう、それはセリに、あの娘にとっても同じ事。ただ、あの娘が秘めている本当の力は強大すぎるから、覚醒した場合、あの娘の十代半ばの未完成な肉体と精神は崩壊する」
「そんな!」
「だから、力を指し示し、自覚させるような方向に導くような言葉を向けるのは、絶対にしてはならない事なの」
「それで、どうなったんです?」
「その場で慌てて、嘘をついて誤魔化した」
「嘘?」
「あなたは刻の鐘の対者、赤い瞳は優れた対者の証、ってね」
「それで間宮は……」
「自分の持つ本当の…… 内に秘めた力によって、自らを崩壊に導く事無く、刻の鐘の力のみに目覚めて、対者として覚醒した。私の独断の咄嗟の賭けだったのよ。もしあの時に失敗していたら、セリは……」
いつか間宮は、自分が対者であることが、自分の生まれてきた意味だと言っていた。ふと、サオリさんの言葉に、そんなことを思い出した俺は思わず、あの時の彼女の姿を、そして言葉を頭に思い描く。
『この瞬間、私は生きてるって感じるのよ!』
間宮は言っていた。不敵に笑みを浮かべ、敵を睨みつけ、まるで戦う事を楽しむ様に。
あれは、そのまま、言葉の通りだったんだ。あの瞬間はおそらく、本当に間宮の全てだったんだ……
「あのね、今話した全てを、此れ迄イクト君に隠したり誤魔化していたのは、いつも一緒に居るイクト君の心を、セリが読み取って真実を知ってしまわない為。真実を知れば覚醒するし、覚醒すれば崩壊する。セリが希に相手の心を読んだり、何かを見通せてしまう事が出来る事は、知ってるわよね?」
「ええ」
そこまで言い終えて、サオリさんは「ふう」と短く溜息をついた。そして、頷く俺を横目に、前を向いたまま、悲しげに瞳を細めながら
「私、あれ以来、あの娘に嘘を重ね続けて…… 悪いお姉ちゃんね」
呟き、再び溜息をついた後、短く笑った。
「まあ、本当は、お姉ちゃん…… なんかじゃ、ないんだけどさ」
「サオリさん……」
「あと、正直に言うとね、ジルベルトの連中から話しを聞いた時、凄く戸惑ったの。私が、セリに対して知っていた事は今話した全てだけなのよ。忌者を呼び寄せているとか、楽箱での一件とか…… 強大な力を持つセリなら、もしかして…… って少しだけ考えちゃった」
「…………」
「でもね、イクト君の話を聞いて、安心したわ」
「そう…… ですか」
「ええ、それに…… だからこそ私は全てを話そうと思った」