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結界対者
【アクション その他小説】

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結界対者・終章-5

「あのね、イクト君。ここまでの話に嘘偽りは決してないの。でも、それ以外に私、イクト君に隠していた事がある。でもね、それは、そうしなければならなかったから。そうしないと、あの娘が…… セリが駄目になってしまうから」
「……サオリさん?」
「いい? イクト君、落ち着いて聞いてね」

 呟いた横顔が、心なしか引きつっている気がした。
 それはその、これから語ろうとしている何かが余程のものであるという事なのか……

「あの娘は、本当は対者とか、そんなもんじゃない。もっと大切な、強大な力を秘めた存在…… そして、あの娘は私の妹ではない」
「サオリさん?」
「統べる者、結界の根源、迥霍(ぎょうかく)の生まれ変わり」

 なんだ…… と? 

 突然だ、あまりにも突然で、その内容は把握出来るものの理解が出来ない。だって、間宮はサオリさんの妹で、二人は仲の良い姉妹で、刻の鐘の対者で……

「続きを、話すわね?」
「あ、はい」
「あの娘が高校に入ったあたりから、あいつらは薄々気付いていたのかしらね…… だって、春日さんみたいなのを、セリの近くに置いたのだから…… 時期的に、樋山君から、何らかの情報を得た? ううん、今となってはどうでもいい事ね。とにかく、彼らはセリの正体に気がついていたんだと思う。もしかしたら、樋山君をこの街に来させたのも、セリに接触させる狙いがあったのかもしれない。そして、楽箱の一件が起こって、事は奴らの思惑通りに進んだ」
「しかし、結果は……」
「そうね、こんな結果になるなんて、奴らも予想しなかったでしょうね。だからこそ、奴らは慌てて、私にセリを引き渡す様に迫り、それが叶わないと知るや否や、春日ミノリを使って凶行に及んだ」
「でも、サオリさん」
「何かしら?」
「そこまで解っていたんだったら、間宮と俺に本当の事を話してくれれば良かったのに。俺達は自分の手で身を守れましたよ」
「それは、無理なのよ」
「無理って……」
「ごめん、少し遡って話すわね?」
「え、ええ」
「あのね、私が、あの娘を姉として育てる様になったのは十五年前、あの娘は生まれたばかりで、私もまだ十四歳だった。私はある人間に預けられて、そのまま菅澤の家であの娘を育てる生活を始めたの」
「スガサワ?」
「ああ、今から行く所の事ね。迥霍(ぎょうかく)の生まれ変わりとはいっても、あの娘は極々普通に育って、私は…… そりゃあ、学校とかには通えなくなっちゃったけど、あの娘と一緒に穏やかに暮らしてこれたの。でも、あの娘が十四歳になった時、困ったことが起こった」
「困ったこと、ですか?」
「あの娘ね…… 」

 言いかけてから躊躇う、しかし振り絞る様に

「自殺しようとしたのよ」
「……な!」

 まさか、間宮に限ってそんな!

「あの娘ね、妙に辛抱強いところがあって…… ずっと我慢して、黙っていたのね。私達…… 私や、あなたのお母さん、そして菅澤の人間でさえ、あの娘の直面している悲惨な日常に気づいてあげられなかった」
「それって……」

 問いかける俺に、サオリさんは黙ったまま、そっと左手の指先で自分の瞳を指す。


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