結界対者・終章-2
「ねえ、どこがいい? セリのお姉さん?」
「……?」
「フフ…… お姉さんは、お店に遊びに行く度に色々ご馳走してくれたから、リクエストに応えてあげたいと思うの。さあ、言って? どこに飛ばされたい? 下水道の底? コンクリートの壁の中?」
「春日さん…… あなた!」
再び静かに、サオリさんから言葉が放たれた。しかし先程とは違う、此方に向けられた背中から、異様なまでの怒気を感じる。
「ほら、早く答えなさい? じゃないと私、勝手にあなたをオススメの場所に飛ばしちゃうわよ?」
「……小娘がっ!」
瞬間、吐き捨てたサオリさんの背中が、シュッと音を残して目の前から消えた。かと思えば、それは刹那に春日ミノリに迫り、一瞬の「何か」で攻撃を加える。
正に一瞬、そして、それを受けた春日ミノリは
「ぐぎゃああああっ」
その端正な顔立ちを醜く歪ませながら、断末魔の悲鳴をあげた。
「さ…… サオリさん? 何を……」
「ふん、赦しの小筒はセリにあげちゃったからね、今は『こんなの』しか無いのよ」
背中を向けたまま、言葉を返すサオリさんの右手には、いつしか刀の様な、長いナイフの様なものが握られていた。
そいつを正面から受けたのだろう、春日ミノリの半身は血に染まり、腕が……
う、腕が、無いっ?
「これは、裟化釖(しゃげとう)。その女みたいな化け物を、削ぎ落としながら消して行く、霊刀」
化け物、だと?
「てめえっ、クソババぁぁぁぁぁっ!」
春日ミノリが吠える。顔を歪ませたまま、諜戮の眼差しを目の前の全てに向けながら! しかし、サオリさんは微動だにせず、
「思い上がらないで。魔法なんてね、唱えなければ意味が無いのよ。その前に私は、あなたの全てを削いで消し去る!」
吹き付ける突風の様に迫りながら再び、瞬きも許さぬ早さで斬りつけた。
ドン!
斬る、というよりは吹き飛ばした、と言うべきか。その刃先は春日ミノリの、残った方の腕を肩から捉え、再び一瞬のうちに削ぎ、消していく。
「ぎゃああああああああああっ! 畜生っ、畜生っ、 ち く し ょ う っ!」
両腕を失い、悶えながら、春日ミノリが更に吠える。そして
「覚えていろっ! ババア! おまえはアタシが絶対に殺す! 誰も思い付かない様な、誰もやったことのない、最低最悪の…… 凶悪なやり方で殺してやるからなっ!」
喚く様に叫んだあと、床に大量の血痕を残したまま、そのままに……
消えた。