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結界対者
【アクション その他小説】

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結界対者・終章-3

「ふん、逃げた…… か。しかし、黙唱魔法で自らを消すとはね。樋山君の言ってた通り、かなりの上級術者だわ……」

 サオリさんは呟きながら、その場に屈みこむと、取り出したハンカチで血痕をなぞり

「ふう、こんなものかしら……」

それを丁寧に畳むと、再び前掛けのポケットにしまいこんだ。
 俺は何も理解出来ず、その場に腰を降ろしたまま、立ち上がろうとはしたものの、いまいち上手く動けず、ただ視線を投げ掛ける事しか出来ない。そんな俺に振り返りながら

「無理よ、元には戻ったけど、頭の中には怪我の記憶が残っているから」

サオリさんは静かに優しく告げる。
 そういえばいつか、間宮が戦いの最中に大怪我をした時、時間を戻してそれを治した後も、暫くの間ダルそうにしていたっけ。

「ええ、すいません、なんだか上手く動けなくて」
「気にしないで…… と言ってあげたいところだけど、実はそうも言ってられないのよね」

 言いながら俺に近づき、そっと肩を寄せ

「つかまって。そして、何とか立ち上がって」


 厳しい口調で、静かに呟く。

「サオリさん?」
「セリを助けにいくわ。これまでの事は、その途中で全部話すから」




―2―

 学校の裏口に停めてあったその小さな車、サオリさんの車は彼女の唱えた「刻・縛」の言葉と同時に、滑る様に走り出した。
 ハンドルに軽く指を添えて、視線を送るフロントガラスの向こう側の全ては止まり、まるでゲームセンターにあるレーシングゲームの中の、造り物の世界の様だ。
 時折、時間が止まった時にとり残されたであろう、交差点の真ん中に行く手を遮る様に停められたままの車や、横断歩道の上に立ち止まったままの人々にぶつかりそうになり思わず息を飲んだが、サオリさんはなにくわぬ顔で、それらをかわしながら走り抜けて行く。

「あーあ、時間を停めたところで、意味はないのよ。たぶん、あいつらには、こんなの関係ないし。まあ、移動には手間取らないけどさ」

 不意に口を開き、そんな他愛もない事を溢したサオリさんに、俺は訊きたかった事と、訊かねばならなかった事を思い出した。

「あの、サオリさん」

 おもむろに声をかけてみるものの、どのように訊いたら良いものか、上手く言葉が思い浮かばない。
 訊きたい事はたくさんある、だがそれらが頭の中で全くまとまらないのだ。
 そしてそれは、サオリさんにとっても同じ様で

「さてと、何から説明しようかしらね」

ため息混じりの呟きが、走らせる横顔から漏れた。

「あの、さっき、時間を……」

 ようやく思い付いて切り出す、しかし気が付いて

「サオリさんは、対者なんですか?」

言い直す。


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