結界対者・終章-17
「この声!」
その声に呼応するように甲冑達の群れが二手に割れる。そして、その狭間からあの
「春日ミノリっ!」
馬鹿本を殺し、そして俺まで殺そうとした春日ミノリが、あの時のあのままの姿で現れた。
「会いたかったわ、サオリさん。私ね、この前の腕のお礼を、どうしてもしたかったのよ」
ニヤリと笑みを浮かべ、視線を鋭くこちらへ向ける。
「痛かったわよぉ? ねえ、サオリさん」
「ふん、自業自得でしょ? それに、新しい腕を付けてもらったみたいじゃない? いいわねぇ、それ。前のヤツより二の腕が細い気がするするわよ?」
「くっ…… ババァが!」
春日が言い捨てた瞬間、甲冑達の持つサーベルが、一斉に此方に向けられた。
「あら、取り押さえろって言われてなかったっけ? こんな事していいの?」
「ブルゲ様は、間宮セリの力を解放する方法を知りたいだけ。だから……」
一層、サーベルが鋭く向けられる。
「口が利ける程度に痛ぶってあげる。いっその事、殺してくれって、泣きながら懇願するくらいね」
絶対絶命って言葉が、頭の中でグルグル回る。さすがに、膝が笑って、しかもそいつを情けないと思う余裕すら、今の俺には無い。
だが、サオリさんは微動だにせず、春日ミノリを睨み据えたまま、
「悪いわね、あなたの悪趣味なお人形遊びに付き合ってる暇は無いのよ」
引かずに言葉を投げた。
これが対者って奴なのか……
改めてそう思わされる程の気迫が、そこにはある。
「ふん、いいわ。やっておしまい! 私の僕(しもべ)達っ!」
その声に呼び覚まされたかの様にいくつものサーベルの先端が、勢いを上げて俺達に迫る。
が、しかし、凪ぐ様にサオリさんの裟化釖が端からそれらを弾き飛ばし、それと同時に一瞬のうちに甲冑の囲みを僅かに散らした。そして
「イクト君、非常口の方へ、全力で風を放って!」
刹那に叫び、再び裟化釖を構える。
非常口…… なるほど、理解した、一点突破だ!
拳に力を込め、風を集めるイメージを。そして、そいつを、突きだし風を放つっ!
すると、目の前を塞いでいたいくつかの甲冑達の壁が、剥がれ散る様に吹き飛ぶ、そこに非常口まで届く僅かな道が開けた。
「今よ! イクト君、走って!」
大丈夫だ、言われなくても!
再び床を蹴り、全力で走り出す。この図体のでかい、重そうな甲冑達より、スピードなら確実に此方に分がある筈。
振り切ってやるさ!
あの廊下まで、あと少し、あと少し、あと少し…… ……っ?
何だ…… 肩が…… 肩が、痛い?
それまで前に集中していた意識が、肩へと揺らぐ。