トラ恋!秘めた想い--side.理香---2
「どしたの、あいつ?」
少し呆れたように健一さんが言う。
「さっぱり分かりません。球技大会で疲れてるんじゃないですか、色々と」
後ろに手を組む私が前を見据えたまま答えると、健一さんはひとつ浅い溜息をついた。
「どうにかならんかね、あいつのすぐ内に籠っちまう性格」
「ホントですよ。…兄はこんなにしっかりしてて…カッコイイのに……」
「え? なんて?」
「な、なんでもないですっ!」
「そうか? 兄がどうとか言わなかったか? …まぁいいや。それはそうと、理香ちゃん」
「は、はい?」
不意に目が合って、思わずドキッとした。
健一さんの目が、今までほとんど見たことのない真剣さを含んでいたから。
何を言われるのかは、だいたい予想がついたけれど。
「孝次を、頼むよ。あいつには理香ちゃんしかいないんだから」
私は初めて、答えに詰まった。
いつもなら笑って「はいはい」と答えていたのに。
もし、孝次が叶絵とくっついたら、健一さんは……
少しは私のこと、考えてくれるのかな……
「…ちゃん。……理香ちゃん?」
「はっ、なんですか?」
「どした? 思いつめたみたいな顔しちゃって」
「別に…なんでもないです」
「…そっか。じゃ、行こうか」
「はい」
顔を合わせればいつも言われる。
孝次を頼む、と。
私の気持ちも知らずに………いや、もしかしたら知ってて言ってるのかもしれないけど。
葉池健一。孝次の兄。私の、初恋の人。
いつか、この気持ちが伝えられる日が来たらいいなと、心の片隅で小さく思う。