Authorization Lover-VOLUME6--1
雨が降る日はよく思い出す。
柴田燕の事を。
二年前のあの日を……
※※※
two years ago
「おーい!杉本!」
決して狭い訳ではない企画室に、威勢の良い声が響きわたる。
雛菊は、机に突っ伏していた身をのそっと起こして、自分の名を呼んだ男を力無く見た。
「何よ…燕…二日酔いなんだから大声出すのやめてよ…」
燕は呆れた顔で雛菊を見る。
「オメー最近いつも二日酔いじゃねーか。なんかあったのかよ?」
燕は雛菊にドリンク剤を渡した。
「べっつにぃ〜。」
雛菊はドリンク剤のキャップを捻りながら軽く流した。
柴田燕。企画部の若き部長。
彼は成員性の高い男だった。一見、ただの軽い優男のように見えるが、会社への帰属意識は高い。上司からも受けがよく、部下からも慕われた。百人に問えば、百人が理想の上司だと述べるだろう。
実際、雛菊に対しても色々と世話をやいてくれていた。
ただ、今の雛菊にとっては、新婚ホヤホヤで幸せそうな燕は煩わしい男なだけだったのかもしれない。
いつも彼の好意を袖にしていた。
──後でどれだけその事を悔やむか知らずに…
「そうそう、知ってるか?」
「知らない。」
「…人の挙げ足をとるなよ。木原十夜の妹が企画にくるらしーぜ。」
「木原常務の?」
雛菊は驚いて燕を見た。
木原十夜といえば、先日、常務に就任したばかりの男だ。庶務課の女の子が、若くて容姿の良い上役の誕生に大騒ぎしていたのが久しい。
確かに企業が大きくなると嫁候補として女性社員が入れられるという裏事情もあるが…とりあえず、木原十夜は最近の噂の渦中の人物ではあった。
「へぇ…その妹が入るんだ。女の子達その子に媚売りまくるんじゃない?」
雛菊はにやっとして燕を見た。燕は苦笑いして首を振った。