Authorization Lover-VOLUME6--4
「それに俺はそれだけの事をしたんだ。」
「え?」
燕は真っ直ぐに雛菊を見つめた。
「木原との噂は本当だ。」
「は?」
雛菊は体が冷えていくのを感じた。
「俺が出てけば事は済む。木原常務もそれで気が済むだろ。」
雛菊はそれを聞いてカッとなった。
「あんたねぇ!それが優しさだなんて勘違いやめたら?同情なんかで…」
「同情じゃねーよ。」
雛菊は息を飲んだ。
「何ですって…?」
「同情じゃない。…俺は木原が好きだ。」
「な…奥さんはどうなるのよ。離婚する気?」
背中が嫌な汗でひんやりとする。
燕はそれには答えず、無言で段ボールを持ち、部屋を出ていった。
知らない。こんな燕は。
私が見てきたのは一部分だけだったの?
「雛菊。」
振り返ると七緒がいた。その表情は物鬱気で、悲しかった。
「柴田部長はもう行ってしまったわ。…私が新しい部長に任命されるみたいよ。」
「…なら七緒に敬語遣わなきゃね。」
七緒は呆れた顔をして雛菊を見た。
「雛菊が敬語は無しって言ったんじゃない。…柴田部長にも遣ってなかったのに何言ってるの?」
「そうだね…。」
「木原さんは会社辞めるんですって。せっかく仕事に馴染んだばかりなのに勿体ないわね…。」
「…そう。」
「紗香さんと杉原君は木原さんと燕部長の処分に逆らってまた地方に左遷よ。」
「…そう。」
「雛菊…」
その時の事は正直覚えてない。ただ外の雨の音が耳についていた。
それからの雛菊は、全く仕事に手をつけることが出来なかった。
企画は、仕事を引き継いだ事で宣伝部と仲が悪くなった。