Authorization Lover-VOLUME6--2
「いや…そうもいかないみてーだぜ?此所だけの話、本当の妹じゃないらしい。」
「は?」
「木原常務、奥方が先日亡くなったろ?その彼女の双子の妹を引き取ったらしい。」
雛菊は唖然とした。
「世間体考えりゃ亡くなった妻の妹をまた妻として迎えるのはわりーんだろ。…事実上、木原晶は木原の妾だ。」
雛菊は顔を歪ませた。
「……噂話に興味がないアンタがそんな事を言うのは珍しいわね。」
燕は雛菊の言葉の棘に傷付いたように眉を寄せた。
「仕方ね─だろ。こんな時期に来るなんてどーなってんだっつたら人事部のヤツがペラペラ喋ったんだ。部長として聞くのは仕方ないだろ。」
「あ、そう。」
雛菊は途端に興味をなくし、爪を磨ぎだした。
爪を整え終わるとフッと息をかけ、雛菊は立ち上がって企画室から出ていった。燕の視線は雛菊の背中を追っていた。
結局、雛菊は何故、木原晶が企画に来るかを燕に訊かずに話を中断させてしまった。
数日後、本当に木原晶は、企画に配置された。木原晶は華奢で小柄、そして美しい女性だった。
簡単な挨拶と歓迎会。
晶は、始終張り付いた笑顔を見せていた。
そんな晶に構ったのが燕だった。はじめは戸惑った様子の彼女だったが、燕の持ち前の人当たりの良さのせいか、次第に打ち解けるようになった。燕を慕う企画部の杉原仙太と小林紗香とも、いつの間にか仲良くなっていた。
企画の職員はホッとしたように、その光景を温かく見守っていた。
だが、雛菊は嫌な予感がしてならなかった。晶の燕を追う視線が、燕の妻のそれと同じであったからだ。
そして、女の勘は当たるものだ。
「どうなってるのよ?」
七緒は、小声で雛菊に話し掛けた。
ここは食堂だ。雨が酷いせいか、周りは外へ昼食をとりにも行かず、食堂は満員盛況だった。
「何が?」
「とぼけないで下さい。…柴田部長と木原さんの事よ。」
七緒は暗い顔をした。
「噂になってるのよ。…企画だけでなくて。」
「どんな風に?」
七緒は、躊躇ったような仕草をしてから、渋々口を開いた。