ベルガルド〜闇の薔薇と解放〜-3
「魔力っていうのは、空気中に無数にあるもので、俺たちはその力を借りて魔術を使ったり精霊を呼び出したりするんだ。」
「えぇ・・・そこまでは城の研究者に聞いたことがあるけど・・・」
「俺たちの体は通常、魔力を封じていない状態だと、空気中の魔力を自動的に体内に取り込むように出来ている。ここまではいいか?」
「え?えぇ・・・」
「その時、なぜか薔薇の香りに似たにおいがするんだ。」
トゥーラは顔をしかめた。
それが何だって言うの?という表情を浮かべている。
「それを魔族はDR(ダーク・ローズ)の香りと呼んでいるが、これはヒトにとっては有害で、中毒がひどい場合だとそれだけで死に至る。」
「死に至るって・・・」
ベルガルドの話を聞いてトゥーラは青ざめた。口を震わせぱくぱくさせている。
「ちょ・・・ちょっと!それを何でもっと早く言わないのよ!!」
「・・・ごめん、トゥーラさん。僕たちずっとレオーベンにいてヒトと関わることなんて無かったから・・・その、失念していたんだ・・・」
トゥーラは怒りのやり場を失い、頭を抱えた。信じられないという風に首を振る。
「ベルガルド殿―!!これでよろしいか!!?」
副団長が白い薔薇の花束を持って走ってきた。
初老の男性が花束を持って駆けてくる姿は正直異様だったが、今はそのことに突っ込む人はだれもいない。
「・・・。その白薔薇を口元に当てて、呼気を吸収させるんだ」
「は・・・っ!これで良いですかな?」
副団長は白い薔薇の花束をセシルの口元に当てている。セシルの吐息が薔薇にかかったときであった。
ボロ・・・
白かった薔薇は次々と真っ黒に染まっていく。
はらりはらり、と花びらが散って。床に降り積もった。
「な・・・!?」
その様子を見て、皆は驚愕した。
「白い薔薇はダーク・ローズを吸収する。覚えておいて損はないだろ?」
ベルガルドは不敵な笑みを浮かべた。
(冗談じゃない!!魔族が恐れられるのも当然のことだわ!)
トゥーラは改めて魔族が畏怖される理由を実感した。
ヒトを遥かに凌ぐ、強大な力を持つ魔族・・・。
普通にしているだけでも、人を殺せる力を生まれつき持っている。
「あ・・・れ・・・?」
セシルは何が起こったかわからないという表情で目をぱちくりさせ、周りをきょろきょろと見回した。カイに抱き起こされていることを確認すると真っ赤になって後ずさる。
「な、な、何してるのよーーー!!」
「良かった!元に戻ったみたいだね、ベル」
カイはやっと安心したように顔を上げた。
「あぁ・・・でも少し元気すぎだけどな。」
トゥーラが床に落ちた黒い薔薇の花びらを手に取ると、それはすぐに粉々に砕けて原型をなくした。
灰のように。
その様子をじっと見つめる。
(私はとんでもない人たちと、行動を共にしようとしているのかもしれない・・・)
ぽん、と後ろから肩を叩かれる。
「メアリー・・・」
「城のことはお任せください、女王陛下。」
「えぇ、副団長とあなたがいるんだから、何も心配していないわ。」
その言葉を聞くとメアリーはトゥーラの手を強く握り、諭すように言った。