水泳のお時間-6
「ほら、早くビート板使って練習しないと。泳げるようになりたいんだろ?」
「瀬戸く…は、はい…っ」
瀬戸くんに言われてしまい、わたしは密着した感触に戸惑いながらも、慌ててビート板を握る。
そして恐る恐るつま先を地面から少し水に浮かせると、そのまま軽くバタつかせてみた。
「ただバタつかせればいいってわけじゃないよ。足が沈んでる。腰をもっと上げて
「で、でもどうすれば…きゃっ…?!」
するとその瞬間、瀬戸くんはわたしの腰を掴んだかと思うと、水面上まで持ちあげてきた。
わたしはいきなり持ち上げられたことよりも、瀬戸くんに腰を触られたことにビックリしてしまい、握っていたビート板を思わず手放してしまう。
「こら。ビート板は放しちゃだめだろ?ちゃんと掴んでなきゃ。でないと溺れちゃうよ」
「ご、ごめんなさ…っ」
瀬戸くんに言われるまま、わたしは慌てて水面に浮いたビート板をもう一度掴む。
腰は今も彼に持ち上げれられたまま、戸惑いつつもバシャバシャと必死にバタ足を続けた。
「そうそう。その感じ。少し良くなってきた」
「せ、瀬戸くん…っ」
「これなら俺が手を離しても平気かな?ためしに離すよ」
「えっ、待っ…」
ほめられたことが嬉しくて思わず喜んでしまいそうになると、瀬戸くんは突然わたしの腰から手を放してしまった。
その瞬間、わたしはとっさに足裏を地面に滑らせ、溺れそうになる。
「せっ、瀬戸くっ…おねが…泳げなっ…」
「しょーがないな、桐谷は。今度は浮き輪も持ってこないとだめか」
「……」
必死に助けを求めるわたしを容易く抱き上げて、瀬戸くんがふいにため息をはいた。
それを見てわたしはショックを受けてしまう。
どうしよう…。
わたしがいつまでも泳げないから、呆れられちゃったの…?
…っ…
「ちょっといじめてみただけじゃん。そんな顔するなよ」
「……っ」
「ほらそうやって桐谷がすぐ泣き出すから、またいじめたくなる」
瀬戸くんは少し困ったように笑うと、思わず泣き出してしまったわたしを抱きしめ、髪を大事そうに撫でてくれた。
そのとき瀬戸くんの筋肉質な胸板がほっぺたに当たって、わたしは思わず胸がドキドキしてしまう。
だめだよわたし。こんな事くらいで緊張してちゃ、呆れられちゃう…っ
それでも瀬戸くん…わたし…わたし…っ
しばらく瀬戸くんの胸の中に抱き寄せられていると、今までゴロゴロと音を立てていた空がとうとう雨を降らせ始めた。
それを見た瀬戸くんは途端にわたしから手を放したかと思うと、冷たい雨を降らす灰色の空を仰ぎながら呟いてみせた。