水泳のお時間-5
「ハァっ…ハァッ…はぁ…」
「……」
今のキスで、わたしはすっかり息が上がってしまって…。
だけどそんな私とは対照的に、瀬戸くんは息ひとつ乱す様子はなく、こっちをジッと見つめてくる。
「桐谷は、どう思ってるの?俺のこと」
「えっ…」
「桐谷は俺のこと、スキ?キライ?」
あまりにも唐突なその質問に、わたしはますます困惑してしまった。
瀬戸くんのことはもちろん好き…大好きだけど…。
でも、そんなことわたしには恥ずかしくて答えられない…
「言えないの?」
「…っ…」
「今年の夏は泳げるようになりたいんだろ?言わなかったら教えてやんないよ?」
「そっ、そんな…いや…っ」
「イヤだろ?今年こそは泳げなくて恥ずかしい思いしたくないだろ?それなら言ってよ。俺のことスキだって、教えて下さいって」
瀬戸くん…何だか、いつもと違う。怖い。
今までこんな風に言われることを、本当はすごく待ちわびていたはずだった。
瀬戸くんに好きって言ってもらえること、こんなにも夢見ていたはずなのに。
だけど実際に突きつけられたその言葉は、まるで高圧的にわたしを縛り付けようとして、押し付けようとして…。瀬戸くんの「男」を知ってしまった気がして…
片想いしてた頃には戻れないと思った。きっともう二度と…絶対に。
「桐谷」
「……」
いつまでも答えないわたしに瀬戸くんが強引に迫ってくる。
とうとうプールの端際まで背中を押し付けられてしまい、わたしは身動きが取れない。
言わなくちゃ…。でないと、誤解されちゃう…
「どうなの?」
「わ、わたしも、瀬戸くんが…す、き…好き…」
「うん。それで…?」
「だから……せ、瀬戸くんだけに教わりたい…教えてもらいたいです…っ!」
その言葉に、瀬戸くんが静かに微笑んだ気がした。
それでもわたしは逆らえない。きっと、どんなことをされたとしても、一生…
だってわたしは、瀬戸くんが好きだから……
「桐谷がそう言うなら、いくらでも教えてやるよ。手とり足とり、ていねいに」
そう言うと、瀬戸くんはある物を教官室から持ってきた。
そしてそのまま手渡された分厚いボードを前に、わたしは目を開く。
これ…ビート板?
「ほら。ビート板はこうやって持つんだよ」
「えっ?ぁっ…」
思わず戸惑っていると、いつの間にか背後にまわった瀬戸くんが両手を重ねてきた。
その瞬間、彼の身体が背中にぴったりとくっ付いて、わたしはとたんに声が上ずってしまう。
「桐谷…もしかして緊張してる?」
「そ、そんな違…っ」
「そうやって否定するけど…こっからは胸の谷間が見えて、すげーえろいよ…?」
私の肩に顎を乗せながら、瀬戸くんが甘く囁いてくる。
ピタリと密着する身体。そんなわたしの胸元に晒されているのは…瀬戸くんの視線。
その瞬間、わたしは心臓がうるさく波打って、身体がビクビクなって…
どうしよう。視られてる。
それだけでなんか…なんか変な気持ちに…っ