飃の啼く…第17章-7
「ヤクだ。それも飛び切り上物の。」
「持ち主は?あんた…じゃなさそうだな。」
男は、女をひざに乗せたまま器用に身体をかがめて、机に肩肘を突いた。
「俺のものになるはずだった。」
そして、長くなった葉巻の灰を落としてから
「取引相手がヘマやってとっつかまったんだ…だが、警察が押収したという情報もねえ。どこぞの勘違い野郎が持って逃げちまったにちげえねえ。」
もう一本葉巻をとって勧めてきた。
「取引相手?」
葉巻を断って、追求する。名前を明かすことに躊躇した様子だったが、肩をすくめて言った。
「南 庄蔵って野郎だ…なんでも、賞金稼ぎに挙げられたらしい…。」
賞金稼ぎ…興味深い情報だ。
「その賞金稼ぎの情報は無いのか?」
いや、と、仲村は首を振った。
「手がかり一つ見つかりやしねえ…だが勘違いするな。お前が探すのはチャチな犬なんかじゃねえ…ヤクだぜ。それさえ手にはいりゃあ文句はねえ。何しろ純度が違う。末端価格までざっと見積もりゃぁ…」
手を振ってさえぎった。余計な情報は必要ないし、この男のマフィア気取りの身振り手振りにもうんざりだ。この男も、どうせ一度では飽き足らず、二度目の以来を申し込んで、あの廃病院に連れて行かれる運命だ。
「結構だ。では、見つかったときはこちらから連絡する。」
そしてドアを閉め、足早にその場を後にした。
「犬、ねえ…。」
賞金稼ぎの存在は、裏社会ではかなり有名になりつつある。なんでも、警察が目撃情報や証言に報奨金を出すことになった事件の、情報どころか容疑者を捕まえてくるという凄腕の賞金稼ぎだ。
同業者…あるいは…
「同属…か。」
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「一体何をしてるの?あなたの仕事って、なんなの?」
またそれを聞くのか、と、飃の表情は心なしかうんざりしているようにも見えた。
「危険なんでしょ?だから私に教えてくれないんでしょ?」
「…何も言わない。」
頭に血が上る。
「カジマヤを巻き込んで、平気なの?!まだ小さいのに!」
卑怯だ。私はそんなことが言いたかったわけじゃない。ほんとうは、“まだ小さいカジマヤにとってなら危険じゃなくて、私にとっては危険な事ってなんなの?”と、こういいたいのだ。