飃の啼く…第17章-5
「はーぁ…」
しかも、こういう悩み事があるときに限って、飃の帰りは遅いのだ。
あぁ、嫌になる…。
気を取り直して台所に立ってから、もう1時間。不安にかられたときには、なにか別のことをするのが一番なのだ…でも…
再び深い思いにとらわれている自分に気づく。古典的な方法かもしれないが、こういうときは目を閉じて、深く深呼吸をするといい。そうして目を開ければ…そう。例え気休めでも、少しの間は忘れていられる。
味噌汁に最後の具を入れたとき、玄関の向こう側からなにやら言い争う声がした。台所の前にあるすりガラスから、そこに映る二つの人影と、会話の内容に注意を向けた。
「黙っておくって…そんなんじゃ解決しないって!あいつのことを信用してないから今は様子を見るってわけ?」
切羽詰ったような声は、カジマヤのものだ。
「信用はしている。ただ、話したところでどうにかなる問題でもない…。いたずらに心配を抱かせるのは得策ではないだろう。」
でも…と言い募るカジマヤに、
「この話を簡単に口に出すな。」
と、威圧的に言い放って会話は終わったようだった。会話が終わって間をおかずに、玄関のドアが開いた。
「…おかえり。」
ああ、と返した飃の目に、いつもと違うところはないのかもしれないけれど…目そのものが秘密を背負ったように、少し俯いているようにもみえた。
「さくら〜!」
飃の後ろから顔を出したカジマヤは、先の言い合いのことなどまるでないかのように明るかった。
「ご苦労様!いまから帰るの?」
…だから、私も何も聞かなかったかのように明るく返す。
「いや、もうチョイやることが…」
気まずそうに、続く言葉を見失って目をそらす。
やることがあるけど、さくらには“秘密”だから…
そう言いたいのだろう。私は、出来上がった味噌汁をタッパーに入れて、手早くおにぎりを握って持たせた。最近、飃やカジマヤが夜に出かけることなどしょっちゅうだ。そんな彼らにおにぎりを持たせてやるのが最近習慣になりつつあった。
渡すついでに、外に出てドアを閉める。もう、これ以上のけものにされるのは御免だ…何としてでも問い詰める覚悟で、いきなり切り出した。