飃の啼く…第17章-19
「ならば、これからも『希望』という奴がどれだけ当てになるか見せてもらうとしよう…。」
風炎は一歩も動かずに…神立の真後ろに立っていた。それが発する居るような殺気が、神立を狼狽させる。
「な…!?」
瞬間移動のようなありえない動きに、構えた鎌の動きが一瞬遅れる。風炎の手には、抜き身の日本刀が光って…後ろに向かってようやく繰り出した鎌は…日本刀ごと…少しの手ごたえもなしに風炎を切り裂いた。
いや
正しくは風炎の分身のうちの一つを。
「分け身の術…!」
神立は、風炎の姿を模した何体もの虚像に囲まれていた。どれが本物なのかわからない。匂いや、殺気まで再現された完璧な幻影…。
「く…っ!」
彼は追い詰められ、闇雲に切りかかった。
かつて神立が見た擾の「分裂」を、再び目の前にしたかのように思えて…確かに彼は恐怖していた。
一体…二体…何体切ってもきりは無い。ただ、ものすごい殺気が、彼に反射的に鎌を振るわせた。それは、彼が受けてきた訓練の呪いでもあった。風炎はそれを知っていて、わざとこんな戦い方をするのだ。
「卑怯だぞ!風炎!」
答えはない。
「くそ…っ」
どのくらいの時間が経過しただろう…神立は消耗し…自分の立っている場所すらわからないほど疲れ果てていた。
実際には、彼が立っていたのは地下への穴が穿たれたまさにその淵だった。気づいた時には、目の前に“本物”が立って神立を見下ろしていた。
「自らの闘争本能も制御できないようでは、いくら敵の知識があっても無駄なことだ。」
そして、
「次はもう少し…希望という物の力を見せてくれ、神立。」
神立の眉間に加えられたわずかな力が、彼を地下への暗闇に突き落とした。
「また会うことがあれば…だが。」