飃の啼く…第17章-15
「今夜は起きそうに無いな…。」
飃は、しばらく物憂げに鬼の顔を見つめてから、そう言って立ち上がった。そろそろさくらを迎えに行って、機嫌を直してもらわなければならない。
「…いつまで秘密にしておけるかなぁ…この仕事のこと。」
カジマヤが、同じく立ち上がりながら言った。
「だって、ニュースでも散々騒がれたぜ?麻薬の行方がわからないって…兄ちゃんが海に捨てたりするから、余計に大事になったじゃないか…」
一番最近の事件を蒸し返されて、飃はカジマヤを振り返った。軽率だったと自分でも思っているだけに、余計に聞きたくなかった。
「あんなものは、どうせ残しておいたってろくなことにはならんだろう。」
「あのなぁ、ああいうのって、証拠になるんだぜ?警察だって目を白黒させてたじゃないか…ま、俺も詳しいことはわかんないけど。」
そして、再び俯いた。
「それに、もう一つのことだってさ…。黙ってるの、なんか気の毒だよ。いつまで黙ってる気?」
「…出来るだけ長く、だ。神立の言うことが本当なら、これ以上さくらに何かを背負わせるのは避けたい…およそ感情を抱く生き物というものは、次に記憶する感情を選べぬ…。」
その時…
「ぅうう…ぅ」
鬼が声を上げた。寝言か、と、彼らは部屋を出ようとした…
「あ、ァ…か、ね……ゥウ…」
飃は凍りついた。
「……何だと?」
飃が、鬼のほうに再び歩み寄ろうとした時、さくらの尾行兼護衛につけておいたはずの神立が帰ってきた。
「飃さん!!」
「どうした!」
飃の思考は一気にさくらへと注がれる。
「に、人間の奴らが…さくらさんを攫って…!倒してやろうと思ったけど、さくらさんが…」
自分で何とかできると、考えたのか。またしても彼女の悪い…いや、忌むべき性質が飃をいらだたせた。
「彼女は何故止めた!?理解できん!」
思わず声に出して怒号を上げる。